世界最大の資源供給国ロシアがまたも強権ぶりを発揮している。
着手から15年を経て本格稼働にこぎ着けた、日本の商社が参画する資源開発プロジェクト「サハリン2」。2月18日、ロシア・サハリン島には日露両首脳も駆けつけて液化天然ガスプラントの稼働式典が華々しく開催された。しかしその舞台裏では、お隣の「サハリン1」をめぐって虚々実々の駆け引きが繰り広げられていた。
「1」は日本政府をはじめ、伊藤忠商事、丸紅などが参画するサハリン開発のもう一つの柱。「2」の式典直前、その「1」の一部鉱区の開発が停止してしまったのだ。開発を進めてきた企業連合は「ロシア政府が2009年の事業予算を承認しないため」と説明する。
背景にあるのは産出される天然ガスの販売をめぐる暗闘だ。石油天然ガス・金属鉱物資源機構の本村真澄主席研究員は「企業連合が交渉で有利な条件を引き出すための戦略では」と読む。
天然ガスについて、「1」の筆頭事業者である外資は当初、天然ガスを中国に輸出する意向だった。しかし、ロシア側は国内向けに供給するとして、全量を中国向けの10分の1以下ともいわれる安値で、ロシアの天然ガス独占企業のガスプロムに卸すよう求めている。それに対する策というわけだ。
ただ外資側が拒否したとしても、ロシアは中国向け輸出に必要なパイプラインの敷設を認めない可能性が高く、ロシア側の要求をのまざるをえないと見られている。
大手総合商社のエネルギー部門幹部は「政治的な強権発動ができる国では経済原則で計れないことが起こる」とロシアの資源ナショナリズムの暴走を懸念する。ロシアは「2」でも06年、環境問題を交渉カードとして持ち出し、最終的に権益の過半数をガスプロムに譲渡させた。
ただ見誤ってはいけないのが、ロシアの振る舞いは狡猾で強圧的だが“無法者”ではない点だ。本村研究員も「ロシアは法の横紙破りはしない」と指摘する。
今回も、資源の管理強化をいかに法律に反映させるかを考えたロシアが、天然ガスの権利は企業連合にあるとする「1」の開発契約と、ガスプロムにあると規定する国内法のあいだにできたグレーゾーンを突いて揺さぶりをかけてきたのだ。
資源を持たない日本にとって、安易な「ロシア悪玉論」は得策ではない。相手の狡猾さを逆手に取るしたたかさが必要だろう。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山口圭介)