青砥瑞人(以下、青砥) はい、本日はありがとうございます! さっそくなんですが、いまお聞きした「ISSUE DRIVEN=外的」「VISION DRIVEN=内的」という整理の仕方について、じつは僕はちょっと違和感を抱いていまして……。というのも、外的なイシュー(課題)を解決していくISSUE DRIVENなアプローチであっても、結局、イシューを感じているのは「脳」ですから、それも「内的」と言えてしまうからです。

青砥瑞人(あおと・みずと)
DAncing Einstein(ダンシング・アインシュタイン)ファウンダー/CEO
日本の高校を中退後、米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)にて神経科学学部を飛び級卒業。脳神経の奥深さと無限の可能性に惹かれ、暇さえあれば医学論文に目を通す「脳ヲタク」。一方で、とくに教育には情熱を持ち、学びの楽しさと教えの尊さを伝えることが生きがい。研究者ではなく、「研究成果」を教育現場・ヒトの成長する場にコネクトし、ヒトの学習と教育の発展に人生を捧げている。脳×教育×ITを掛け合わせたNeuroEdTechを世界初で立ち上げ、この分野でいくつもの特許を取得している。

佐宗 面白いですね! イシューにしろビジョンにしろ、どちらも脳が感じていることだというわけですね。

青砥 そうなんです。人間の脳は「差分」(足りないところ、欠けているところ)に対して強く反応するようにできています。差分を認知するために特別に発達した脳の部位は、前頭前皮質(PFC)の少し内側にある前帯状皮質(ACC)という部位で、生物が生きていくうえで非常に重要な部位です。自分が学習してきたのと違うことや、エラーに対してデリケートでないと生存確率が低まってしまうからです。

人間の脳は前帯状皮質が非常に発達していますから、基本的に「粗探し」が得意なんです。課題解決(ISSUE DRIVEN)とは、エラーを見つけること、足りていないところやできていないところを探すことでもありますからね。

もっと詳しく言うと、とくに課題解決などの際には、符号化・言語化されていて「これ、なんかおかしいよね」と言葉でラベルを貼りやすい「陳述記憶」がよく使われる傾向がありますね。

佐宗 ということは、VISION DRIVENな考え方は、言葉にしづらい非陳述記憶と、言葉になっている状況との差分を脳が認知しているということなのでしょうか?

青砥 そのとおりです。「内発的」と呼べるような発想をしているときには、どちらかといえば言語化・記号化がされていない「非陳述記憶」が反応しています。ですから、佐宗さんのおっしゃる「妄想、知覚、組替、表現」のサイクルというのは、まだ言語化できていないことを言語化していくプロセス、非陳述記憶を陳述記憶に置き換えていくプロセスなんですね。

佐宗 なるほど! 「直感を論理につなぐ」というコンセプトが、ニューロサイエンスから見ても裏づけがあることだとわかってうれしいです。

脳の3つのネットワークが創造性のカギ

佐宗 以前から僕は、言語で考えるときと非言語で考えるときって、頭の使い方のモードが全然違うと感じていました。会議室で議論しながら考えるときと、散歩していて思いついたり、立ったり手を動かしながら考えるときとでは、脳のはたらきが違うと思うんです。
言語側で考えているときと非言語側で考えているときの違いはなんでしょう?

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
BIOTOPE代表。戦略デザイナー。京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
大学院大学至善館准教授東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修了。P&G、ソニーなどを経て、共創型イノベーションファーム・BIOTOPEを起業。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)など。

青砥 そもそも使っている脳の部分が違うため、出てくるものも全然違います。言語は、かなり限定的な表現です。たとえば、コップを「コップ」と表現した時点で「コップ」でしかなくなります。でも、コップを「『コップ』以外の言葉で説明しなさい」と言われればいろんな表現になるでしょう。言語は我々にとって非常に便利なツールではありますが、その代わりいろいろな情報を「落として」いることも認識する必要があります。

佐宗 言語にすると、解像度が粗くなりますよね、デザインを勉強して以来、言語での処理だけに頼ると、いかに情報を削ぎ落とした状態で思考することになるのかを実感しました。しかし、言語を使わないわけにはいきませんから、そこにジレンマを感じるようになったんですよね。

青砥 脳には3つのネットワークがあるんですが、この違いを知っておくと、脳の使い方の違いを理解しやすくなると思います。

まず一つ目が、「デフォルトモードネットワーク」(DMN:Default Mode Network)。これは特定の対象に意識を払わない、一見ボーッとした意識状態です。しかし脳は活動しており、それとなく何かを考えていたり、自分の脳の記憶を辿ったりしているときに活性化すると言われています。

次が「セントラルエグゼクティブネットワーク」(CEN:Central Executive Network)。これは、1つの目標を計画したり実行したりするときに活性化するネットワークで、意識的に課題解決案を思考したりする際に活性化します。

最後が、「セイリエンスネットワーク」(SN:Salience Network)。DMNとCENのハブ的な役割を果たす、両者の中間となるようなネットワークです。DMNとCENを切り替える機能を果たしていると言われています。

佐宗 それについては以前に調べたことがあります。創造性を生み出すためにはボーッとしたりブラブラしたりするときに働くDMNが重要なんですよね。ただ、それを明確な知にまで落とし込むためには、知性を使って判断するCENとその両方を行き来するSNの働きが必要になると。

青砥 そうですね。イチロー選手は「自分がどう感じて、どう打てているかを言語化できたときに超一流になれた」ということを語っていますが、こういった情動記憶を言語化するにはCENやSNのはたらきが欠かせません。

多くの人は、外側から来た刺激に対してどう反応するかに注目しがちですが、自分の内面の環境変化に気づくトレーニングはあまりやっていません。マインドフルネスや瞑想は、内部環境の変化に気づく力を鍛えましょうということで流行っているようですが。

これからは、自分の内側の変化に対して、差分を認識していくことがすごく重要になります。とりわけ、言語的な差分よりも非言語的な差分に対する気づきが大切になると思いますね。佐宗さんのVISION DRIVENのアプローチはそこをかなり意識したアプローチだと思います。