「論理に裏打ちされた戦略があってこそ、成功にたどりつける」――これがかつてのビジネスの常識だった。しかし「他者モードの戦略」は、いたるところで機能不全を起こしつつある。その背後で、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えているのは、「根拠のない妄想・直感」を見事に手なずけた人たちだ。
そんななか、最新刊『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』を著した佐宗邦威氏は、いま何を考えているのか? P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の「戦略デザイナー」が語る「感性ベースの思考法」の決定版!!

壁にぶつかる人は「どうすれば…?」と問うクセを変えたほうがいい

創造の「テンション」を引き出す――問いかけの魔法

現実を大きく動かすような「妄想」には、その妄想を引き出すための「余白」が不可欠だ。しかし、いざうまく壮大な願望やアイデアを引き出せたとしても、それが「単なる妄想」に留まっている限り、まだ思考をドライブさせることはできないだろう。

ビジョンを思考のエネルギーに変えるためには、ただ理想とする状態が見えているだけではなく、理想と現実とのあいだに横たわる「ギャップ」の認知が必要なのである。そうした認知があって初めて、現実を変えようとするエネルギーが生まれる。これは「創造的緊張(Creative Tension)」と呼ばれている。

創造的緊張を生み出すときに有効なのが、「問いかけ」という方法だ。

僕が「問いかけ」の力を知ったのは、P&Gのマーケターだったときだ。同社では毎年12月、1年間の成果を定量的に分析し、翌年の課題を洗い出すことになっていた。課題設定はブランドごとに行われていたが、必ず課題を「問いかけ形式」のフォーマットに落とし込むようになっていた。

単に「課題=現状のユーザーに新たなトライアルをしてもらう」ではなく、「どうすれば、現状のユーザーに新たなトライアルをしてもらえるだろうか?」という疑問文のかたちになっているのである。

些細なことに思われるかもしれないが、これも一種の余白デザインである。

問いかけの形式になっていることで、自ずと僕たちの思考にはそれに答えようとする強制力が働き、その余白を埋めるべく、具体的なアクションが起こりやすくなる。とくに、組織として何か1つの問題解決を行う際には、このように「問いかけ」をデザインすることで、メンバーを同じ方向に意識づけることができる。

非常に合理的に考えられたやり方である。

「問いかけ」は、マーケティングのようなイシュー・ドリブン(問題解決型)なアプローチにおいても有効だが、ビジョン・ドリブン(妄想駆動型)な思考においては、それ以上に効果を発揮する。ただし、アプローチに応じて、問いかけの構文が異なってくることには注意が必要だ。

何か具体的な問題を起点にして、その解決を目指すイシュー・ドリブンな取り組みにおいては、「どうすれば……できるか?」(HOW−MIGHT−WE型)という問いかけを立てることによって、「マイナスをゼロに引き上げようとするドライブ」が生まれる。

他方、妄想を起点にした考え方の場合、問いかけは「もしも……ならどうなるか?」(WHAT−IF型)というかたちをとる。前者と対比するなら、こちらは「ゼロからプラスに引き上げる駆動力」だと言えるだろう。

壁にぶつかる人は「どうすれば…?」と問うクセを変えたほうがいい図:イシュー・ドリブンとビジョン・ドリブンの「問いかけ」の違い

もし、自分で「これだ!」と思う妄想があるのなら、それをぜひWHAT−IF型の問いかけに落とし込んでみてほしい。「その妄想を実現するには何が必要か?」ではなく、「妄想が実現したら何が起こるか?」と、さらなる未来に目を向けてみるわけだ。

妄想(ビジョン)はその実現可能性を考えた途端に、エネルギーを失っていく。最初のステップで何よりも大切なのは、自分の内から湧き出てきた妄想の「熱量」をできるだけ冷まさないこと、できればより「熱く」することである。この段階でどれくらいのワクワク感を持てるかが、ビジョン思考の最終到達点を大きく左右するからだ。

WHAT−IF型にしたビジョンの例をいくつかあげてみた。「問いかけ」になっているほうが、思考にドライブがかかるのを感じていただけるはずだ。

 □ 「もしも誰もが週3日だけ働く時代が来たら、どうなるか?」
 □ 「もしも平均寿命が1000歳になったら、どうなるか?」
 □ 「もしも空飛ぶクルマが発売されたら、どうなるか?」
 □ 「もしもお金が存在しない世界になったら、どうなるか?」
 □ 「もしも1日100冊ずつ読書ができるなら、どうなるか?」

こうした話を読まされても、「こんなことをして何の意味があるのか、さっぱりわからない!」というフラストレーションが溜まってくる人もいることだろう。ふだんから「他人モード」で思考することに慣れきっている人、問題解決型のアプローチや論理的な思考プロセスに親しみを抱いている人ほど、なんらかの居心地の悪さを感じるはずだ。

そういう人は、次のような問いかけを立ててみてほしい。

「あなたの妄想が実現することで、どんなネガティブなことが起きるか?」

壁にぶつかる人は「どうすれば…?」と問うクセを変えたほうがいい図:あなたの「妄想」に対する心のブレーキに気づく

自ら立てた目標をなかなか達成できないとき、心理学の世界では、「それは本人の潜在意識が『目標を達成すること』自体を恐れているからだ」といった説明がなされることがある。僕らの心には、つねによりよい状態を求める一方で、大きな変化を避けようとする「免疫系」のような働きが備わっているのだ。

それならば、WHAT−IF型の問いかけに答える際に、プラス面だけでなくマイナス面もはっきりさせてしまえばいい。

そこからまたさらに妄想が広がれば、それはそれでかまわない。この段階では日頃ついつい「地に足がついた」発想をしてしまいがちな自分を捨てて、なるべく遠くまで思考を「飛ばす」ことを意識してみよう。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
壁にぶつかる人は「どうすれば…?」と問うクセを変えたほうがいい

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。