関税はもはや武器、「国益経済」の手法を全解剖

米国は9月1日、中国への制裁関税の第4弾を発動した。中国も報復措置として追加関税を発表。エスカレートする関税合戦は、これからも当面収まらないだろう。なぜなら米国にとって対中関税は経済合理性を超えた、「硝煙なき戦争」の攻撃手段だからだ。そして国益のために使える経済的手段は、関税だけではない。全4回特集「国益と経済 経済安全保障の時代」の第2回では、武器としての「七つ道具」を詳解する。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)

経済的手段で国益を追求
武器としての「七つ道具」

 連載の初回で、経済的手段によって安全保障上の目的=国益を実現することを「エコノミック・ステイトクラフト」と紹介した。一国が経済的手法で国益を追求した例は、歴史を振り返れば数多い。そもそも強い経済なしに安全保障は確立しにくいし、安全保障が盤石であることは経済的繁栄の条件でもある。経済と国益はかくも不即不離。30年間の自由経済の春において、多くの人が忘れていた事実である。

 健全な競争を善とするビジネスパーソンにとって、エコノミック・ステイトクラフトは歓迎しづらい。しかし現実として、大国がこれを発動している以上、エコノミック・ステイトクラフトが「具体的にどのようなものか」を知らないままでは、知的に無防備だ。この問いにヒントを与えてくれるのが米国外交界の大物、ロバート・ブラックウィル氏らによる書籍『War by Other Means』(その他の手段による戦争、未邦訳)。ブラックウィル氏はキッシンジャー元米国務長官やジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の特別補佐官などを歴任。現在は外国問題評議会(CFR、「フォーリン・アフェアーズ」の発行元)の上級研究員を務める。彼は同書で、七つの分野に分けてエコノミック・ステイトクラフトを解説している。これをガイド役に、国家がいかに経済行為を武器化するのかを見てみよう。

「国益経済」の七つ道具

 (1)貿易 貿易相手国に関税を課したり、特定品目の禁輸措置を行ったりする
 (2)投資 地政学的な目的を念頭に他国産業への投資や企業買収などを実行する
 (3)制裁 経済的手段を通じて制裁を加え、相手国に打撃を与えようとする
 (4)サイバー攻撃 インターネットを介したサイバー攻撃を用いることで混乱に陥れる
 (5)経済援助 軍事支援や人道支援に資金を投じ、戦略的な影響力を持とうとする
 (6)金融・通貨 金融政策や通貨のコントロールを通じて、支配力を高めようとする

 (7)エネルギー・コモディティー

原油などのエネルギー資源や鉱物資源、農産品といったコモディティー(国際商品)の保有国が、他国への供給停止などを振りかざす
*ロバート・ブラックウィル&ジェニファー・ハリス著『War by Other Means』(2016年、未邦訳)の内容を基にダイヤモンド編集部作成