>>(上)より続く

隙だらけで愛さざるを得ない
マスコットキャラ的な上司

 ネットのランキングなんかを見ていると、理想の上司に求められる要素として多数の支持を得ているのが「頼りがいがある」「リーダーシップがある」「指示が的確」などとなっている。部下を頼もしく引っ張っていってくれる上司が、わかりやすくウケもいいようである。

 Bさん(36歳、男性)の部長はこの典型的理想の上司像とは真逆の人物で、しかし、がっつり部下の心をつかんでいる。

 部長はおおむね不幸そうであり、いつも家族に虐げられているらしい。小遣いが少なく、飲み会の幹事をまかされると酒が薄くて食べ物がまずく、汚くて格安の店を見つけてくるのが得意である。東北出身でなまりが強く残っており、客商売なのでクレーム対応時に立場が上の人として出ていくと、客が「日本語喋れるやつを出せ!」とさらに激高する。また、話し方がゆっくりしているためかあまり仕事ができそうな印象ではない。身なりはパッとせず不潔ではないが特に清潔感があるわけでなく、枯れつつあるおじさんといった体である。

 この上司が部下に愛されてやまない。それはなぜか。

「全体的にものすごくダメな感じの人なんだけど、かえってそれが味になっている。こっちがフォローしてあげたくなるような気にさせられるというか。『俺はダメだからお前らのフォローがあって本当にありがたい』みたいなことをよく口にしているので、そう言われるとこっちもその気にさせられる。根が人たらしなんだな、きっと。偉ぶらないところもいい」(Bさん)

 横山光輝の『項羽と劉邦』では、後に天下統一を果たして漢を興した劉邦が実にダメな君主として描かれている。しかし劉邦は素直で臣下の声によく耳を傾け、また自分がダメなことを自覚して有能な臣下に信頼を預けた。

 結果、劉邦の人徳に引かれて集まった有能な人材たちは、おのおのの能力を十二分に発揮することができた。Bさんの部長は典型的理想の上司像には程遠いが、劉邦的タイプのリーダーであるといえよう。人を使うのが非常にうまいのである。

「『最後のところで、この人はわれわれ部下の味方だ』と思わせてくれるのが、一番根本にある。部長が盾になってかばってくれた例を何度か見てきており……。誰かが仕事でかなりまいっているときは部長がいち早く察して親身になって話を聞く、といった優しさもある。