哲学史2500年の結論! ソクラテス、ベンサム、ニーチェ、ロールズ、フーコーetc。人類誕生から続く「正義」を巡る論争の決着とは? 哲学家、飲茶の最新刊『正義の教室 善く生きるための哲学入門』の第9章のダイジェスト版を公開します。


 本書の舞台は、いじめによる生徒の自殺をきっかけに、学校中に監視カメラを設置することになった私立高校。平穏な日々が訪れた一方で、「プライバシーの侵害では」と撤廃を求める声があがり、生徒会長の「正義(まさよし)」は、「正義とは何か?」について考え始めます……。

 物語には、「平等」「自由」そして「宗教」という、異なる正義を持つ3人の女子高生(生徒会メンバー)が登場。交錯する「正義」。ゆずれない信念。トラウマとの闘い。個性豊かな彼女たちとのかけ合いをとおして、正義(まさよし)が最後に導き出す答えとは!?

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あなたはなぜ「働く」のですか?

前回記事『「構造主義」をひと言で説明すると?』の続きです。

「正義くん、キミは『働く』または『働かない』という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか?」

「えっと、そうですね。『働く』は『偉い』とか『生きがい』とか……。『働かない』は『ろくでもない』とか『羨ましい』とか、そんなイメージが浮かびますね」

 働かないを羨ましいと連想したくだりで、教室に小さな笑いが起こった。

「なるほど、ありがとう。今、正義くんが言った回答は、まさに我が国の資本主義社会という『システム』ならではのものだと言えるね。つまり、資本主義、貨幣経済という『システム』の中で生きている人間だからこそ、思いつける回答だということだ。実際、経済という『構造、システム』を持たない国に正義くんが生まれていたとしたら、同じように回答しただろうか?」

 僕は、美味しい食べ物が1年中そこらに転がってるような暖かい南国で、のんびりと暮らしてる自分の姿を思い浮かべた。

「いえ、しないと思います。少なくとも、働くのが偉いとか働かないのが羨ましいとか、そういう発想自体を持てなかったと思います……けど、でも」

「ん? どうしたのかな、正義くん?」
「えっと……経済システムがない、つまり、働く必要がない国で生まれたら、『働く』ということについて意識が変わる……それって、ある意味当然というか……」

「ああ、なるほど。『経済システム』と『働く』では、互いがあまりにも密接に結びついているからたしかにそうなってしまうね。つまり、一方が変われば、もう一方も変わるのは当たり前であると。では、『挨拶』ならどうだろう。『おはようございます』や『こんにちは』などの挨拶だ」

 挨拶か。まあ、それなら経済とか資本主義とか直接は関係ないよな。

「では、正義くん、仮にキミに弟がいたとして、その弟が人に挨拶を返さない子だったとしよう。さて、キミは何と言って彼を諭すだろうか?」

「それはまあ、まともに挨拶もできなかったら、社会に出てから困る……あ」