寝苦しい夜も過ぎ、ゆっくり眠れる季節になった。

良い眠りのための入浴法、カギは「90分前」と「熱放散」Photo:PIXTA

 多くの睡眠研究者が一致して推奨しているのは「6~7時間睡眠」だが、忙しい現代人には難しい話。最近は次善の策として、入眠の直後から現れるノンレム睡眠にいかにスムーズに入るか、という点が注目されている。

 基本的な睡眠パターンでは、脳も身体も眠っているノンレム睡眠と、それに続くレム睡眠(脳は起きているが、身体は眠っている状態)のワンセットが起床までに4、5回くり返される。

 特に入眠直後から始まるノンレム睡眠は最も深く、この間に自律神経系の調整や代謝に関わる成長ホルモンの分泌のほか、嫌な記憶が消去される。つまり入眠困難や中途覚醒で深いノンレム睡眠が邪魔されると、昼間に経験した嫌な出来事や感情を引きずることになってしまうのだ。

 また最初のノンレム睡眠の乱れは、続く睡眠パターンにも影響するので、次の日のスッキリした目覚めも奪われかねない。

 米テキサス大学の研究者らは、よりよい入眠法を求め、睡眠と睡眠導入に関わる入浴法に関する5322件の研究報告をレビュー。

 その結果、眠る90分前に40~42.7度のお湯に漬かると、体温が眠りへと誘うよう調節され、入眠までの時間を平均10分間早めることが分かった。

 体温には皮膚温と深部体温があり、昼間は深部体温が2度ほど高い。しかし、寝る時分には深部体温が0.3~0.6度低下し、皮膚温との差が縮まる。この現象が「入眠スイッチ」であり、スムーズに入眠するには人為的に深部体温を下げればいいわけだ。

 それには、熱いお湯に漬かり、深部体温をいったん上げることが肝心。上がりすぎた体温を下げようと手足の毛細血管に血流が大量に送り込まれて熱放散が生じ、深部体温が良い具合に下がっていく。この一連の現象に費やされる時間がおよそ90分間なのだ。

 したがって、入浴後90分~2時間以内にベッドに入れば、すぐに“眠りの精”が訪れて質の良い睡眠が得られるだろう。夏の疲れを癒やすためにもお試しあれ。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)