ニューアーク空港では至る所にタブレットが設置され ており、料理を注文するとチップを要求してくる Photo by Izuru Kato 拡大画像表示

 米国の小売店や飲食店での支払いにおけるキャッシュレス化は、クレジットカードかデビットカードが主流になっている。非接触型のアップルペイ、グーグルペイを使っている人も一部いるが、日本で増えてきたQRコード式の支払いを店舗のレジで見掛けたことは一度もない(欧州も同様)。

 近年はカウンター式の手軽な飲食店で、客がタブレットで注文と支払いを行う方式もかなり増えてきた。先日米ニュージャージー州のニューアーク空港に行ったときは少々驚かされた。空港の至る所にそのシステムが設置されているのだ。

 レストランやカフェだけでなく、各ゲート間にある待ち合い用のテーブル席にも共通のタブレットが設置してあって、どこから注文してもそこに料理やドリンクが運ばれてくる。便利ではあるが、戸惑うこともある。チップだ。「クラシックバーガー」を画面上のカートに入れ、クレジットカードで決済しようとしたら、「チップは?」という表示が出てきた。筆者の認識としては、飲食店におけるチップとは、料理や店員のサービスに対する満足度に応じて払うものだったはずだ。しかし、この場合はまだ何も出てきていない。

 料理が遅く来るかもしれないし、食べたらまずかったという恐れもある。それなのに先払いでチップを要求されるのだ。「0%」を選択しようとしたが、ふと、「ケチな客だ」と見なされて調理人やウェイターに後回しにされ、飛行機に乗り遅れそうになるのは嫌だな、と思った。

 日本のように最初から価格にサービス料が含まれていればこういう悩みは生じない。米国は面倒である。小心者なので結局「10%」を選んでしまった。似た心理でチップを払う客は他にも多いだろう。

 最近さらに悩ましいのがコーヒーショップである。カウンター越しに注文して、そこで紙コップに入ったコーヒーを受け取って立ち去るだけなのに、タブレットが公然とチップを要求してくる。「えっ、あなたは私に何かサービスしてくれましたっけ?」と思ってしまうわけだが、複数の米メディアの調査によると、7~8割の米国人がチップを払っているという。大半は不本意なようだが、やはり店員や後ろの客に「セコい人」と思われたくない気持ちが働くらしい。

 しかもコーヒーショップのタブレットが小ずるいのは、チップの選択肢が「%」表示になっていない点だ。例えば4ドルのコーヒーの場合、10%なら40セントだが(テーブルに座ったわけでもないのに15%以上払う気にはなれない)、選択肢は「1ドル」「2ドル」「3ドル」となっている。

 最低の1ドルを選んでも25%になる。50セントにしたい場合は「その他」をタップして、次の画面で希望額を入力すればよいのだが、周囲の目を気にする人にはその操作が気恥ずかしいらしい。米国にも小心者は多いといえる。もしかするとそういったタブレットの設計者は、行動心理学を利用しているのかもしれない。

 米国の大都市部では、もともと着座スタイルでフルサービスを提供するレストランにおけるチップの必要額も近年上昇傾向だ。それに加えて、上記のようなタブレットによるキャッシュレス支払いにおいても、巧妙にチップの額が上昇する仕掛けになっているのではないか。

 だとすれば、米消費者にとって実は「ステルス値上げ」が進行しているともいえるだろう。

(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)