背中を押してもらいたい若い世代

 さらに、90代前後の人たちは戦争や貧困など多くの困難、辛い出来事を経てきた。けれど、それらをすべて受け入れ、穏やかに毎日を過ごしているようにも見える。今は、様々な悲しみ、悔しさを抱えていても、いずれは彼らのように乗り越えられるのかもしれない。明確に語られていなくても、そんなメッセージを若者らは勝手に受け止めているのかもしれません。

 けれど、お年寄りの生き方に共感が集まるこの現象には、「普通に生きにくい」今の時代の空気が反映されているのではないか。そう思うのです。

 代表的な「アラ90本」の一冊に、ノートルダム清心学園理事長の渡辺和子さんが書かれた『置かれた場所で咲きなさい』があります。

 タイトル通り、「置かれた場所で自分を全うすることが大事だ」といった人生訓がキリスト教の教えとともに提唱されている本です。いわく、「こんなはずじゃなかった」と思うことが出てきても、その状況の中で「咲く」努力をしてほしい。どうしても咲けない時は無理に咲かなくてもいいから、根を下へ下へと降ろして張れば、次に咲く花が、より大きく、美しいものになる――そんなメッセージが綴られています。

 特に若い読者の支持が高い一冊だと聞きますが、「タイトルに心をつかまれて買った」人も多いようです。裏を返すと、それほどまでに今の居場所で自己肯定感や自尊心を感じられない人が多いということなのでしょう。

 「今の居場所でいい」「平凡な人生でもいい」と背中を押してほしい。そう考えて本を手にする人が多いとするならば、ちょっと胸が痛くなります。こういうタイトルが求められる時代なんだなあ、と思うわけです。