「ありのまま」でいるには勇気がいるが、パフォーマンスは抜群に上がる

中原 結局のところ、セルフ・アウェアネスというのは、「行為の後の気づき」だと思います。何かに対する自分の行為があって、その影響力、そして自分の対応、自分から広がるいろんなものに対する気づき。自分から働きかけて経験し、その経験から、「自分って○○な人間だな」という認識を持つ。さらにフィードバックで、他者が持つ自分へのイメージとの差を認識する。

 ポイントは前にも言ったように、ダメ出しにならないよう、ポジティブなところから見ていくこと。そうすれば、自己と向き合うこともあまりキツくならないですし、パフォーマンスにつなげていく際に効果的だと思います。

中竹 組織論で有名なロバート・キーガン教授は、「人は組織に入ると、自分がいかにすごいかを常に振る舞い続ける」と指摘しています。無意識に多くの人がその罠に陥っています。やっかいなのは、そのせいで人は自分のパフォーマンス以外のことに集中してしまう、ということです。

 よくスポーツで「ゾーン」や「フロー」状態に入る、と言いますが、これは「今」に集中できているということです。その状態に入ることで、自身の最高のパフォーマンスを引き出すことができるのです。裏を返せば、いかに普段、「今」に集中できていないか、ということです。たとえば、野球でバッターボックスに入って、「打ち損ねたらどうしよう」とか「空振りしたらどうしよう」とか「前回はこういう球が来たけど次はどうだろう」とか考えてしまいますよね。「今」ではなく常に「前後」を考えていて、「今」に集中できない。ゴルフも同じです。自分の打った球がどこにいくか意識したとたんに、フォームが崩れる。サッカーもラグビーも一緒で、自分の足が蹴ったボールがどこに行こうが関係なく、蹴ることに集中すべきなんです。でも不安だから、蹴った瞬間、蹴った先を見てしまう。

 これは明らかに「今」から離れています。人の注意力はほぼ1つしかないのに、「この後どうなるか」という「後」のことを考えてしまっている。同じことが仕事でも言えます。職場で、「自分の弱さがどう見られているか」とか、「これをやって失敗したらどうしよう」と考えている時点で、パフォーマンスは絶対に落ちているのです。

 自分の弱さをさらけ出し、ありのままでいるというのは怖いことかもしれませんが、人の目を気にせず、何も捨てるものがなくなれば、パフォーマンスは必ず上がっていきます。そのためにも、「セルフ・アウェアネス」に取り組み、自分らしさを見つけることが欠かせないのです。


2019年8月30日開催。
※本イベントで行われた中原淳氏の講演はこちら 。
※本編に続く中竹竜二氏のインタビューはDHBR.netにて近日公開予定。