「セルフ・アウェアネス」のキャリアへの活かし方
立教大学 経営学部 教授(人材開発・組織開発)。立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。『職場学習論』『経営学習論』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』ほか共編著多数。
中原 セルフ・アウェアネスというのは、転職やキャリアチェンジについて考えるときにも、非常に大事な概念だと思います。自分のことを正しく見つめるのがセルフ・アウェアネスですが、この「正しく」というのは、自分から見た自分と、他者から見た自分、あるいは市場から見た自分との調和ですよね。これが非常に大事。自分を正しく見つめるためにも、転職を考える方はしっかりと棚卸しをしたほうがいいと思います。
中竹 同感です。企業や転職エージェントは、転職希望者自身が自分をどういう人間だと思っているかだけでなく、一緒に働いている人たちにもその人がどういう人間だと思うかを必ず聞いてきます。そこにギャップがあったらどうでしょう。怖くて採用できないですよね。
転職需要が広がるにつれて情報も共有されていきますので、自分のことをわかっていて、背伸びせずきちんと自分のことを語れるかが非常に重要になってきます。とはいえ、いきなり面接で自分のことを正直に語れるかと言ったら、語れないですよね。採用面接の本番は誰しも背伸びしますから。そのためにも、普段から背伸びせず自分のことを語るトレーニングをすべきです。
中原 それには、キャリアを考える頻度というのがまず大事だと思います。日本で勤めている方々の多くは、今自分がどんな仕事をしていて、次の期間までに何を目標にするのかを考える機会は年1回、あって半年に1回くらいでしょうか。短くてもいいので、自分が何をしていて、これから何をしたいのか考える頻度を増やしたほうがいいと思います。感覚的には四半期に1回くらい考えておかないと、難しいだろうなと思います。
中竹 スポーツ界も同様で、成功するアスリートほど、「人生について」ということを結構な頻度で考えています。目の前の試合については、ほぼすべての選手が考えます。でもそれだけでなく、自分の人生を考えることが非常に大事になってきています。これは理論的にも正しいんです。視座を上げていくと、オプションが生まれるからです。
今までのスポーツでは目の前の試合に勝て、それ以外考えるな、と言われてきた。野球なら野球のこと以外考えるな、目の前のことに集中しろ、と。実は、この「集中しろ」が危険なのです。なぜなら、負けたら立ち直れなくなるからです。最近、レジリエンスの重要性がささやかれ始めていますが、レジリエンスの高い人は試合で負けても、「最終的にリーグで勝つ」とか「最終的にアスリートとしていいキャリアを得る」、「最終的に人生幸せに生きる」等々、高い視座から物事を見ることで、簡単には折れにくくなります。
我々も、目の前の仕事や1つのプレゼンがうまくいくかどうかではなく、キャリアという一段高い視座から全体を見ることができれば、余裕ができます。ただし、高いハードルを年に1回、いきなり飛ぼうとしてもうまく飛べないのと同じで、年に1回だけ考えてもうまくいきません。だからこそ、頻度を上げて考える。つまり、キャリアについて考えるトレーニングをしたほうがいいんです。ダイエット論と同じで、常に「意識していること」が成功の秘訣なんですよね。