東京オリンピック・パラリンピック後の不動産業界を懸念する声は根強く、業界内でも価格が上がるか下がるか見解が分かれる。しかし、三菱地所はそこに重きを置いていない。むしろ、不変的な不動産価値を生み出すにはどうすればいいかを大切にしている。少子高齢化時代の不動産業界に何が必要なのか。吉田淳一社長に聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大根田康介)
供給過多の懸念はない
街が広がる余地はまだある
――マンションやオフィスビルがどんどん建設されています。一方で、不動産価格は海外と比べればまだ安いという分析もあります。
不動産価格という観点で考えた場合、海外より割安かどうかは微妙ですが、例えばオフィス賃料なら中国・香港や英ロンドンの方が高いといわれています。これには街が広がる可能性などさまざまな要素が絡み合っていると思います。
例えば、米ニューヨークのマンハッタンは土地に限りがあり、これ以上広がる余地を見いだし難い。香港も似たような状況です。
一方で、東京のすごさは交通網の発達です。そのためオフィスの中心市街地が広がりやすい。以前は副都心といわれていた新宿や渋谷、虎ノ門などもオフィス街の中心になりました。それに連なる居住スペースが広がる可能性も、海外の街とは大きく異なるポイントだと思います。
そのため、単純に海外と東京の不動産価格は比較できないですね。現在の不動産価格を100とすると、ニューヨークなら将来的にせいぜい110にしかならないのが、東京なら交通利便性が高ければ200や300になる可能性があります。
今は高級賃貸マンションがないJR駅周辺の地域もあるかと思います。便利な所に密集した古い雑居ビルやオフィスビルが淘汰されれば、アセットの中身も変わるでしょう。東京には、その時点で最も収益を上げられそうなホテルや高級賃貸マンションに用途を転換できる余地がまだ残っています。だから供給過多の懸念もないと思います。
――不動産価格が一気に下がるリスクはないでしょうか。
不便な所なら部分的、格差的に大きく下がることもあるかもしません。しかし、不動産は「唯一無二の資産」です。立地や集積度合いなどで他にはない価値をしっかり持っていれば、価格が上がる所もあるでしょう。トータルで見れば、一気に価格が下がることはないと思います。
不動産の価値は、その土地を短期的な利益で考えるのではなく、長期的な視点でどう有効活用するかで決まってきます。当社の主力エリアの東京・大手町、丸の内、有楽町地区もそうですし、2013年に開業した複合商業施設「グランフロント大阪」などもそうですが、その地域のエリアの特徴を捉え、将来的な可能性を最大限に生かして人々がコラボレーションやコミュニケーションできる魅力ある空間を育てる。そして、それを維持していくことが大事です。