東北の奥深い山の天然の幸を味わう
シンプルに食材の良さを引き出す技

 開店以来、岩手にある亭主の実家からは春には山菜、秋には松茸などの茸が送られてくる。山の奥深くに分け入ると、毎年、自然が人に恵む山の幸がある。必ず、同じ場所に、ほぼ同じ頃にしっかりと山菜たちや茸たちが生繁るという。

岩手の実家から送られてくる天然の山菜を柔らかな出し汁に漬け込む。写真は「こごみ」。さっくりした上品な食感だった。

 春の山菜はほろ苦さを逃がさないようにひと煮立ちさせ水に取り、出し汁に浸しておく。丁度、客たちの口に入る頃は、その苦味は奥ゆかしく舌に落ち、出し汁の旨みで包まれた甘みもほろりと広がる。

 山菜を食べる文化を培ってきた日本の食文化に感謝し、その山菜をこれほどシンプルに美味く食べさせる料理人の技にも惚れ惚れとする至福の瞬間だ。

「食材が命だと思っています。その食材の持ち味を出したいからなるべく手を掛けません。でも、下準備と下ごしらえには丁寧に、時間を掛けています」(佐藤さん)。

 季節が夏を告げると大きな陶器に盛られた野菜の天ぷらがくる。そこにも入念に下ごしらえされた食材が沢山あった。

 ゴーヤ、ヤングコーン、谷中生姜、アスパラ、茄子などの野菜が色鮮やかにからりと揚がり、食べ進むたびに、それぞれの苦味や甘みや辛味などの特徴が顔を覗かせ、日本酒の旨みに絡む。

 特に「さとう」の天ぷらで人気のあるのがさつま芋の天ぷらだ。そのさつま芋は半日ほど掛けて、ゆっくりと弱火で蒸かす。芋の持つ自然な甘さを最大限に引き出すのだ。これを天ぷらにすると身が蕩けるような食感になり、格別な甘みが口中に広がる。

(写真左)天ぷらの盛り合わせ。ゴーヤ、ヤングコーン、谷中生姜など夏野菜がからりと揚がってくる。(写真右)さつま芋は半日ほど弱火でゆっくり蒸かす。芋の体の中の甘みを存分に引き出してから天ぷらにする。人気の一品だ。