胎内の赤ちゃんに
大人たちの声は“聞こえている”

 実は、胎児の聴覚は妊娠24週頃になれば働き始めます(*3)。ですから、生まれる前に耳にした音を赤ちゃんが覚えていたとしても、何の不思議もありません。ただ、実際に胎児が置かれている状況を考えてみると、声や言語は私たちが普段耳にしているのとは、かなり違ったふうに聞こえていると思われます。

 私たちは、音の振動を鼓膜や骨で感じ取ることによって、音を聞きます。しかし、羊水に浮かぶ胎児の耳は詰めものがされたような状態です。骨も柔らかいので、音の振動が伝わりやすいとは言えません。ですので、そんな胎児が“聞く”音は、私たちが普段聞いている音よりかなり小さく、ぼやけたものになっているはずです。

 また胎児は羊水に浮かび、その周りを膜や脂肪で包まれています。それらは、外界から伝わってくる音を吸収してしまいます。結果として、外ではかなり大きかった音も、胎児に届く頃にはだいぶ小さくなります。

 図表(*4)は、母親の身体の外で90デシベルだった音が、子宮や胎児の内耳に届くまでのあいだにどれだけ弱まるかを、周波数レベルごとに示したものです。ハキハキした話し方で会話するときの声の強さが65~75デシベルであることを考えると、“聞こえる”強さで胎児に伝わるのは、周波数が400ヘルツ以下の音であると考えられます。

 男性の声の高さは平均125ヘルツ、女性の声の高さは平均220ヘルツなどと言われます。ですから、胎内の赤ちゃんに、大人たちの声は“聞こえる”ということです。

「何を言っているか」までは
赤ちゃんに伝わらない

 ただし、125ヘルツや220ヘルツというのは、あくまで声の土台の部分の高さです。話す声が言語の音として聞こえるのは、その土台にもっと高い周波数帯の音が同時に重なって聞こえるからです。400ヘルツ以下の音しか伝わらないとすれば、それはもう言語の音として聞き分けることはできません。声の上がり下がりやリズムなどはわかるけれど、何を言っているかはよくわからない、という音です。胎児が聞いている話し言葉とは、そのような音なのです。

 さらに、母親の身体のなかでは血流音や心音、内臓が活動する音などの低い音も響いています。低い音は外界から伝わりやすいと言っても、それはそれで、母親の身体のなかの音にかなりかき消されてしまうのです。