経験を重ねれば、必ずプレゼンは上達する

 こうして、前田氏はプレゼンをするまでのステップを丁寧に説明したうえで、生徒たちにそれぞれ実践するように呼びかけた。生徒たちは、あらかじめ配布されたシートに記入したうえで、iPadにインストールされているKeynoteでスライドをつくっていった。

 その際には、前田氏をはじめ講師たちが生徒のそばについて、シートの書き方やKeynoteの操作法をサポート。デジタル・ネイティブ世代だからだろうか、“飲み込み”がはやくほぼ全員が所定時間内に、それぞれが工夫をした羽村市の魅力を伝えるプレゼン資料を完成させた。

なぜ、いま小中学生を対象とする「プレゼン講座」が増えつつあるのか?生徒たちのプレゼン作成をサポートする前田鎌利氏

全員の完成を確認したうえで、まず、生徒たちは自分のつくったスライドを使って班内でプレゼンを披露。班内で最も支持を集めたプレゼンテーターが班の代表となり、全員の前でプレゼンを行った。

なぜ、いま小中学生を対象とする「プレゼン講座」が増えつつあるのか?班内でプレゼンする生徒

 初めて、人前に立ってプレゼンをした生徒たちばかり。恥ずかしそうにたどたどしく話す場面もあったが、全員がプレゼンを最後までやりきり、大きな拍手が送られた。その後、総括として前田氏はこんなメッセージを生徒たちに贈った。

「大人になったら、嫌でも人前でプレゼンをしなければいけないときがきます。そのときにあわてないように、今のうちからどんどん人前で発表して、慣れていってください。うまくいかなかないこともあるだろうけれど、何度も経験することで絶対に上達します」

 ワークショップを終えた生徒たちは、「みんなで羽村のいいところを見つけるのは楽しかった」「自分の思いが相手に伝わって嬉しかった」「人と相談しながら資料をつくるのが面白かった」と満足げだった。

 主催者である株式会社明光ネットワークジャパンの堀内航志取締役も、「子どもたちも最初は緊張していて、不安そうな表情を見せていたが、ワークショップを進める中でいつの間にか周りの子たちともコミュニケーションをとるようになり、活き活きとした姿に変わった。それぞれがプレゼンをし終えた後、みんなが笑顔だったのが印象的。期待以上の成果を得られた」と手応えを感じたようだ。

また、堀内氏は、今回の取り組みの意義をこう語った。

「私たちは学習塾ですから、小中学生に国語・算数・理科・社会・英語・数学といった教科の授業を提供するのが基本の仕事です。しかし、生徒たちの『生きる力』を養うためには、それだけでは足りないのではないかと感じていた。これからは自分の考えや思いを伝えたり、表現したりする力がますます重要になってくる。そこで注目したのが『プレゼン』というテーマだったんです。幸いなことに、羽村市教育委員会にも後援していただき、非常に有意義な機会をつくることができました」

 今後、開催場所やワークショップの内容などを再度吟味しながら、プレゼンの大切さと技術を伝えるワークショップを開催する予定だという。

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 当日のワークショップを振り返えれば、「まず、誰に伝えたいかを考える」「プレゼンの明確なゴールを定める」「聞き手にとってのメリットを提示する」など、前田氏が生徒たちに教えていた内容は、そのままビジネスパーソンのプレゼンにも通じる大切な要素ばかりだ。「プレゼン」の基礎は、大人でも子どもでも変わりのない普遍的なものだということでもある。

 ならば早いうちから「社会で生きていくためのプレゼン力」を身につける機会を提供していくのは大人の責務と言えるのかもしれない。