視覚を邪魔するノイズで
へんなものが見える病気の数々

 若倉医師の元を受診する患者の多くは、視力は正常で、眼球には特に問題がないのに「見えない」、あるいは「見るのがつらい」。その不便さ・不快感を健常者に少しでも正しく伝えるために、若倉医師はそれらの症状を「眼球使用困難症候群」と名付けた。

 眼球使用困難症の中には、視界を邪魔するノイズのせいで、見たくないものが見えてしまう病気もある。

 例えば、何らかの病気などで視力低下したり、しかけている人に出現しやすいのだが、現実には存在しないはずの模様や風景、人や動物などの姿が見えてしまう。

 これは「シャルル・ボネ症候群」と呼ばれる現象で、網膜などの病気によって、脳へ到達する視覚信号の量が減少すると、脳に貯蔵されていた像で減少した分が補われる現象だと説明されている。

「患者さん本人は、そこに存在しないものが見えていることを認識しているので、そんなあり得ないことを口走るのははばかられるからと、誰にも話さずにいるケースが少なくありません。それゆえ、正確な患者数は分かりません。

 幻視があることで知られる『レビー小体型認知症』では、本人が幻視の対象を実在していると思い込み、妄想にまで至ってしまうのが通常ですが、シャルル・ボネ症候群の場合は、見えている本人に幻視の自覚があります」

 若倉医師の患者で、自身も医師である男性は、「最近は風呂に入ると、一緒に何人かが漬かっているのを見ます。残念ながら野郎ばかりなんですがね」と、笑って報告したらしい。これほど、割り切っていられる場合はいいが、たいていの人はそうはいかない。

 一方、これは病気で見えにくくなった人に出る現象ではないが、視野全体にいつも小雪が降っているように見えるのは「小雪症候群」とも呼ばれている。

「この現象は、眼球のなかで起こっているものではありません。視覚に関係する脳のどこかに発生している過敏状態、あるいはノイズが原因であろうと推定されています。

 欧米では片頭痛の関連症状として報告されていますが、私が診察している小雪症候群の患者さんには、実は困っている人は多くありません」