在庫を増やすほど、「見せかけの利益」が増える

 早苗はホワイトボードの2つの図を見比べた。FCとDCの利益のズレの28円は在庫金額のズレと一致している。

 「つまり、FCでは売上原価を正確に把握しようとした結果、売れ残りの在庫に対応する固定費が資産計上されることになったんだ。しかも、在庫を増やせば増やすほど、資産に計上される固定費が増えてしまうことから『みせかけの利益』が増えてしまうんだ

 (みせかけの利益……。もしかして千葉精密も?)
 早苗の手にはじわっと汗がにじんだ。

 「FCは『作ってなんぼ』。作れば作るだけ利益が増えてしまうという致命的な欠陥がある。売れなくても利益が出てしまうので『全部原価計算の罠』と呼んでいる。一方で、DCは『売ってなんぼ』。いくらたくさん作っても売らなければ利益が出ない。DCのほうが経営者の肌感覚に近い損得計算だ」

 「なあに、川上先生。いつもこんなに丁寧に教えてくれないじゃないですか?」
 美樹は笑いながら川上を肘でつついた。

 「やっ、やめろって!」
 川上はそう言いつつも、どこか嬉しそうだ。

 早苗は2人のやりとりをよそに、ホワイトボードをじっくり見つめていた。

相馬裕晃(そうま・ひろあき)
監査法人アヴァンティア パートナー、公認会計士

1979年千葉県船橋市生まれ。
2004年に公認会計士試験合格後、㈱東京リーガルマインド(LEC)、太陽ASG 監査法人(現太陽有限責任監査法人)を経て、2008年に監査法人アヴァンティア設立時に入所。2016年にパートナーに就任し、現在に至る。
会計監査に加えて、経営体験型のセミナー(マネジメントゲーム、TOC)やファシリテーション型コンサルティングなど、会計+αのユニークなサービスを企画・立案し、顧客企業の経営改善やイノベーション支援に携わっている。年商500億円の製造業の営業キャッシュ・フローを1年間で50億円改善させるなど、社員のやる気を引き出して、成果(儲け)を出すことを得意としている。
著書に『事業性評価実践講座ーー銀行員のためのMQ会計×TOC』(中央経済社)がある。MQ会計を日本中に広めてビジネスの共通言語にする「会計維新」を使命として、公認会計士の仲間と「会援隊」を立ち上げ活動中。