大学時代に考えていたことや、いまの部署への配属を希望した理由などを、感情を込めて話してもらいました。さらには、営業活動に必要な業界、取引先、商品などの知識や社内での報告の仕方、経理・法務・ITなどについて現在どのくらい詳しいか、関心があるかなどを質問していきました。

 その質問に対する回答が正解かどうかは問題ではなく、その反応によって関心の度合いや真剣にチャレンジしている姿勢を見るのが目的です。その上で、異動を希望しているなら、Aさんが求めているものを具体的に探っていきます。ただし、社会貢献できる部署への異動希望については、しばし棚上げにして触れないことにしました。

 周囲から「優秀である」と評価されている点に触れると、本人いわく「それは取りつくろったもので、できるのは学生時代に磨いた“調整機能”だけです」とのことでした。

Aさん「部署は統廃合を繰り返していて、いつも不安定です。業務知識も取引先の人脈もない課長が異動してきて、既存のメンバーが苛立っていて、職場がいつもギスギスしています」

 この後、体調不良の原因や、そんな時に応援してもらえる周囲の相談相手の存在について詳しく話が聴けました。この中で、両親(離婚している)との複雑な関係が浮き彫りになり、職場での問題解決の際にも、「主張するよりも調整役になる」という自らの立ち位置に気づいていきます。

 話をしているうちに、さまざまな角度から気づきがあったようで、「まずは基礎を固めたい」「退職という安易な考え方をせず、いろいろな可能性を追求してみたい」と言うようになりました。最後に「落ち着いて考えてから来るので、また相談に乗ってください」と言って、帰って行きました。

3日後、人事担当者が来室
人事担当者「ありがとうございました。キャリアコンサルティングのおかげで、本人はすっ
きりしたようです。ある部署に異動させることに内定しました。課長も喜んでいました」

キャリアコンサルタント「ちょっと待ってください!」