能楽「半蔀」
歌舞伎と比べてとっつきにくいといわれる能だが、意外にも欧米などを中心に根強い人気を誇っている。能の何が、彼らを魅きつけているのだろうか Photo:JIJI

600年以上の歴史を誇る日本の伝統芸能の「能」。華々しくわかりやすい歌舞伎や落語などと比べ、能の面白さや見方はいまいちわからないという人は多いかもしれないが、実は海外では根強い人気を誇っている。なぜ能が海外でウケるのか。能楽研究者で法政大学名誉教授の西野春雄氏に聞いた。(清談社 岡田光雄)

フランス人も魅せられる
能の神秘性

 しばしば能は同じ伝統芸能の歌舞伎と比較される。市川海老蔵や中村勘九郎、尾上松也など歌舞伎役者の名前は出てきても、能楽師はほとんど思い浮かばないという人もいるだろう。

 能は、歌舞伎や文楽(あやつり人形劇の芝居)などと同様に、演目ごとのストーリーがあり、謡(歌唱部分)や舞、動き、囃子(楽器演奏や掛け声)を奏でながら物語を進めていく劇である。役者が顔に化粧を施す歌舞伎と違い、多くの場合、能はシテ(主役)が「面」をつけるのが特徴だ。

 能は世界で最も古い劇の一つであり、「舞踊と音楽と演劇とが一体となった総合芸術」と称される。その神秘性は海外の人たちをとりこにしているようだ。

「能の海外公演が行われたのは1954年、イタリアの『ヴェニス国際演劇祭』が最初ですが、それを皮切りにフランス、ドイツ、イギリス、アメリカなどで行われてきました。今年2月、パリで開催された『ジャポニスム2018-響き合う日仏の魂-』では、初めて屋根や柱、舞台、橋掛りまで日本から持ち込み、会場のアリーナに本格的な能舞台を組み立て、能と狂言を5日連続して上演。約700人のフランスの人々は、観客席に突き出し開け放たれた簡素な白木の舞台、まるで教会にいるような神秘な世界に驚いたようです」 

 歴史上のフランスの偉人たちの中にも、能に魅せられた人物は多い。明治時代に来日した宣教師・音楽家で能楽研究の先駆者ノエル・ペリーは「能は生きた彫刻である」、劇詩人で外交官として駐日大使も務めたポール・クローデルは「劇、それは何事かの到来であり、能、それは何者かの到来である」、俳優のジャン=ルイ・バローは「能の静止は息づいている」という言葉を残している。