だが、そのうち2錠では効き目が感じられなくなった。薬を飲んでベッドに入ったあと、子どもが熱を出して泣いたり、ぐずったりすると、起き出して世話を焼くことになる。さっきまで感じていたはずの眠気は吹っ飛び、もう一度寝ようと体を横たえても、頭は冴えたまま。以来、「この2錠で眠れるのだろうか」という不安が募り、薬を飲んでも緊張感が解けなくなった。

 睡眠不足のままでは自分の健康にも悪いし、子育ても社会生活もまともにできない……。強迫観念に駆られ、3錠、4錠と飲み足していった。それでも、スムーズに眠りに入れない。焦った理沙さんがインターネットで見つけたのは、「睡眠薬をかみ砕くと効き目が上がる」という怪しげ、かつ危険きわまりない情報だった――。

「捕まらない薬物」の別名がある睡眠薬や抗不安薬。薬物依存症を引き起こすのは、覚醒剤や危険ドラッグだけではない。自殺行為ともいえる乱用に走ってしまった理沙さんのように、病院で処方された薬にハマる人たちが増えている。

「平成30年度全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」によれば、疾患の原因となった主な薬物は、睡眠薬、抗不安薬が覚醒剤に次いで2位となった。同調査によれば、睡眠薬、抗不安薬依存は大麻や揮発性溶剤と違って女性に多く、比較的、高学歴な人によく見られるという。

処方箋の「3錠」を
「8錠」と書き換えて薬を入手

 依存症治療に詳しいアパリクリニック理事長の梅野充氏は、処方薬依存の実態を語る。

「特に多いのは、不安や緊張をやわらげる抗不安薬、エチゾラムに依存する患者さんです。最初は不眠や不安感から精神科を訪れ、処方通りに服薬を始めるのですが、だんだん量が増えてしまうようです」

 エチゾラムはベンゾジアゼピン系薬剤の1種。ベンゾジアゼピン系には、脳の中枢神経系を抑制する脳内神経伝達物質、GABAの働きを強める作用がある。その影響から、長期間、継続的に服用すると、“常用量依存”といって体に耐性ができ、効果を得にくくなる。

 同時に、薬の作用で脳内の神経伝達物質のバランスが崩れやすくなる。さらなる不眠、不安、焦燥感、頭痛、嘔気・嘔吐、せん妄、振戦、けいれん発作――副作用の症状は深刻だ。ところが、「症状が悪化したのは、薬が足りないからだ」と勘違いし、より服用量を増やしてしまう人がいるという。