深刻化する「外部不経済」が
ディープテックを求めている

 1つ目は、既存の経済による「外部不経済」が、深刻なレベルになっていることだ。外部不経済とは経済学の用語。市場における企業や消費者の経済活動が、その市場の外にいる第三者に不利益を与えることを指している。日本が高度経済成長期に経験した、公害問題がまさしく具体例だ。製造業が経済合理性を追求した結果、公害が蔓延し、莫大な社会的コストを生んだ。

 そして経済のグローバル化が進んだ現代は、不利益を被る範囲も世界規模に拡大している。中国のような新興国が発展し、大量の中間層が誕生した。彼らの食生活が向上し、食にまつわる企業・産業は大いにもうかっている。だがその結果、肉や魚といったタンパク質は早晩、世界的な供給難に陥るといわれている。同様に、世界的な人口増加や都市化によって、エネルギー供給や環境問題も限界を迎えそうだ。2030年まで今のライフスタイルを維持したければ、地球が2個なければいけないという試算もある。

 世界中の企業・産業や消費者が経済的に「正しい」行動をとり続けた結果、全体としては非常に損失が大きい状態に陥っている。外部不経済をこれ以上深刻化させない、できれば根絶するために、これまでにない新しい技術で、産業を持続可能なものにしなければならないのだ。

ベゾス、マスクは宇宙に投資
潮流作る「2周目のお金」

日本企業に大チャンス、世界のお金が「深い科学技術」に向かい始めた米アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏は、巨額の私財を宇宙ベンチャーのブルー・オリジンに投じている。人類が宇宙に移住する日は早晩来ると本気で考えているのだ Photo:Blue Origin

 2つ目は、この外部不経済問題に大胆にお金を投じようという企業家・投資家がいることだ。ざっくり言うと「2周目のお金」の持ち主。1980年代から2000年代にかけ、ソフトウエアやネットの世界で財を成した企業家や投資家が、その財をディープテックに投じているのだ。

 例えば米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、妻と創設した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」で、安全な小型原子力発電の開発などに投資している。また米アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏と、米テスラ・モーターズ創業者のイーロン・マスク氏は、人類が地球外の惑星に移住する日を見越して、ロケット開発のような宇宙事業に参入している。

 彼らは決して、純粋な慈善事業としてディープテックに投資しているわけではない。テクノロジーを利用してビジネス、つまり市場の原理で外部不経済を解消することに大きなチャンスを見出してもいるのだ。