ディープテックの時代にこそ
日本再起のチャンスがある

『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』書影尾原氏がユーグレナ創業陣の1人、丸幸弘氏と共著で出した『ディープテック 世界の未来を切り拓く「眠れる技術」』(日経BP刊)

 このようにディープテックの流れは決して偶発的なさざ波ではなく、必然的で大きなうねりだ。先に述べたような先進国だけでなく、東南アジア諸国もこの潮流に気づき、自国の課題解決に貢献する企業を育もうと奮闘している。そしてこの中で、日本はすさまじく重要な役割を担うことができる。日本には他国にはない、眠れる技術と特性があるからだ。

 理系ノーベル賞の受賞研究者を多数輩出しているように、日本の学術界・産業界は地道に研究開発を重ね、成果を残してきた(近年は研究者不遇の時代ではあるが)。そういった先端的な領域だけではなく、中小・零細を含む幅広い企業に、ものづくりの技術とノウハウが蓄積されている。これはディープテックのアイデアを実際に機器や設備の形で実現する時に、大きなアドバンテージになる。

 そして日本人には本来、複雑系の中に均衡点を見出し、誰もが利益を得られる共生関係を築く能力がある。近江商人の三方よし思想が端的な例だ。だからこそ日本には世界でも突出して長寿企業が多い。今風に言えば持続可能な企業生態系を築いてきたのだ。

 GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のようなITガリバーが台頭する過程は、日本にとってはなかなか厳しい時代だった。ネットベンチャーも多数生まれたが、ゼロサム方式の世界競争の中で日本のベンチャーが居場所を見つけるのは至難だった。だがシャローテックからディープテックへの大きな潮目にさしかかった今、日本が自身の強みに自覚を持ちさえすれば、大きなチャンスを手にできる。

 この寄稿は、週刊ダイヤモンド編集部がディープテック分野を特集するというのでまとめた。編集部によると、特集タイトルにディープテックという言葉を冠することを検討したが、「この言葉自体を知らないという人がまだ多い」と考え断念したという。ディープテックという言葉が、少しでも多くのビジネスリーダーに浸透し、日本がこのうねりを生かして自国経済の再成長と世界の課題解決を実現できるよう願っている。