3つ目は既存のシャローテック分野において、ある種のジレンマが顕在化してきたことだ。米西海岸のシリコンバレーは、言うまでもなくテック企業への投資が最も盛んな都市だ。この地域には有力なベンチャーキャピタル(VC)や、アクセラレーター(経営ノウハウ指導などを通じて企業を育成する業態)など、新しい企業を育てる機能がすべて揃っている。すべては斬新な技術やビジネスを生み出すためだ。

大きな変化起こす深い技術を
投資家も実は求めている

 ところが、この環境があまりに整っているゆえに、企業の成長パターンがむしろ均質化してしまう皮肉な現象が起こっている。M&Aや株式公開というゴールから逆算して、効率的にゴールに至ることに最適化した企業が、多数生まれるようになってきたのだ。「逆算型のスタートアップ」の問題である。

 逆算型スタートアップは、当初は斬新な技術やアイデアを持っていても、より投資家からお金を引き出しやすく、エグジットしやすい事業へピボット(方向転換)しがちだ。この状態は確かに目の前の投資家の利益には繋がる。だが俯瞰して見てみると、本来期待していた斬新なものは生まれにくくなっている。

 シリコンバレーで絶大な影響力を持つ米著名投資家ピーター・ティール氏は近年、運営するファウンダーズ・ファンドでディープテック分野に盛んに投資している。なぜディープテックなのか? ファンド公式サイトには次のような主旨の説明がある。

「近年ファンドは本質的な変化を起こす企業よりも、偽りの問題解決をする企業に投資するようになっている。漸進的なものへの投資は、ベンチャーキャピタルの収益性を破壊しようとしている」

 投資家にとっても社会課題を抜本的に解決するテック企業の方が、より大きな利益をもたらすのだ。そこにリスクがあり、時間がかかるとしても。