『週刊ダイヤモンド』10月26日号の第1特集は、「5年で大化け!サイエンス&ベンチャー105発」です。2010年代のハイテク産業は、インターネットサービスと人工知能(AI)を軸に発展しました。20年代はもっとリアルな科学技術革新が進む見通しです。そこで注目されるのは素材やバイオなどの先端的な科学研究成果。ちょうど先日、吉野彰・旭化成名誉フェローがリチウムイオン電池の研究開発でノーベル化学賞を受賞しました。リチウムイオン電池がハイテク産業を支えてきたように、これから超・重要になる研究テーマが日本にはたくさんあります。20年代に大化け必至、実業家・投資家が要チェックなサイエンス研究&ベンチャーを一挙に紹介します。(ダイヤモンド編集部 杉本りうこ)
これはSFじゃない
火星地球化を支えるすごい素材

米国で今夏、人類の宇宙移住を一歩前進させうるある研究が発表された。火星を地球に近い環境にする「テラフォーミング」(惑星地球化)に、エアロゲルという素材が役立つという内容だ。
発表したのはハーバード大学ポールソン校工学・応用科学部のロビン・ワーズワース助教。火星は人類の移住先として最も有望とされているが、それでも極端に低温であること、紫外線から地上を守るオゾン層がないことは大きなハードルだ。これに対しワーズワース助教は、実験室で火星の地表を再現し、それを断熱効果のあるエアロゲル素材で覆えば表面温度を50度高められることを明らかにした。
また実験で使われた素材は可視光を透過するもののため、紫外線を吸収しながら、光合成に必要な光も確保できるという。米学術誌『ネイチャー・アストロノミー』に掲載され、学術界のみならず、欧米の一般メディアでも多数引用された。
火星移住は、理論物理学者の英スティーブン・ホーキング博士(2018年没)が生前、人類が喫緊で検討すべき選択肢として論じるなど、一部で真剣に検討されてきた。ただそのためのテラフォーミングの方法は、核爆弾を使うなど非常に高コストな方法が多く提案されていた。今回の研究成果は既存のプランに比べ、大幅に低コストで実現可能性が高いことが特徴だ。
実はワーズワース助教が研究に使ったエアロゲル素材、日本のあるベンチャー企業の製品なのである。