多くの精神科入院患者は
誰のために必要なのか

 まず気になるのは、精神医療の医療費だ。

 精神科病院の入院患者数は、世界において日本の「悪名が高い」点の1つだ。2017年度、日本には約28万人の精神科入院患者がいた。この人数は、全世界の精神科入院患者の約2割にあたる。しかも、平均入院日数は2014年に281日で、世界ダントツの長さであった。

 日本に次いで平均入院日数が長いのは韓国だが、それでも同年に125日だった。他の先進国には50日を超える国はない。公費による医療が比較的充実している国々では、平均入院日数はやや長めになる傾向があるが、それでも30~45日程度にとどまる。

 1970年代に法律で精神科入院を原則禁止して「どうしても」という場合に厳しく制限したイタリアや、米国のように高額化した入院医療費が退院を促進してきた国では、平均入院日数は10~20日前後となる。これらの国々では、家庭や地域から長期にわたって離れること自体が社会復帰の阻害要因になるということが、広く認識されている。

「日本人は精神疾患にかかりやすく重症化しやすい」という事実はない。長年にわたって、入院を短期化する努力が続けられており、精神医療そのものも進歩している。1990年ごろの平均入院日数が約500日だったことを考えると、2014年に281日まで短縮されていたことは、むしろ大きな進歩であろう。

 しかし2014年、約18.5万人が1年以上にわたって入院していた。このうち約10万人は、5年以上の入院であった。長期にわたる入院は、それだけで大きな医療費負担となる。1年間の精神科入院に必要な医療費は、少なくとも500万円~600万円程度と見積もられる。すると、10万人分の入院医療費だけで、5000~6000億円となる。