11月19日は「世界トイレの日」とご存じだろうか。トイレ先進国に住む日本人には想像もつかないが、実は世界中の女性の3人に1人が安全なトイレ環境がないために、病気やハラスメント、ひいてはレイプなどの危険にさらされているという。そんな危機的状況に警鐘を鳴らし続け、2001年からトイレ健全化活動を行っているのが「ミスター・トイレ」こと、世界トイレ機関(WTO)のジャック・シム氏だ(WTOといっても世界貿易機関ではない。たった3人で運営している)。世界のトイレ情勢などを語った書籍『トイレは世界を救う』を上梓したシム氏に、日本人が知らない世界のトイレの危機的状況と、日本のトイレ文化のすごさについて話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 林 恭子)
女性の3割がトイレで身の危険に
インドには排泄物の海に潜る仕事も
――私たち日本人は海外旅行などに行くと、トイレの悲惨さにがくぜんとすることがあります。シムさんご自身は、これまでどのようなひどいトイレを見てこられましたか?
シンガポールの社会起業家、別名「ミスター・トイレ」。会社経営などを経て、2001年国際NPO団体WTO(世界トイレ機関)を創設。世界各国での「ワールド・トイレ・サミット」開催や「世界トイレ大学」開講などを通じ、トイレ問題の普及啓蒙に努める。2013年、国連の全会一致でWTOの創設日(11月19日)が「世界トイレの日」に制定される。
ひどいトイレといえば、私が幼少期を過ごした自宅のトイレが挙げられます。英国領だった当時のシンガポールでは、屋外排泄も当たり前。私が暮らしていた貧しく小さな集落では、トイレはくみ取り式の共同トイレで、一列に並んだトイレ小屋で、両足で板の上に乗っかって、用を足していました。
くみ取りは週に一度だけ。トイレの穴の下にはバケツが置かれていて、1週間もすればさまざまな人の糞尿と紙で溢れかえり、大きなハエが飛び回っていたことは子どもの私にとってトラウマになりました。ですから私は、トイレに行くのが嫌で、自宅でお丸を使い、それを親に捨ててもらっていたほどです。
こうした劣悪な状況は、もちろん現在のシンガポールでは改善されたものの、世界各地でいまだに残っています。世界中の女性の3人に1人は屋内での安全なトイレ環境がないために、病気やハラスメントの危険にさらされており、実際にインドでは女性へのレイプの30%が屋外で排泄する際に起こっています。
このレイプが非常に問題なのは、被害を受けた女性のカースト(階層)が低かったりすると、警察に被害を訴えても無視されることです。もしくはこういう事件があったと知られるとある種の差別の対象になって、結婚できなくなったり、家族から勘当されてしまったりするため、なかなか表沙汰にならず、問題が解決されにくい構造になっています。