なぜ、働くことが大事なのか?

 ところで年金や社会保障といえば北欧です。
 みなさん、スウェーデンの年金教育や年金広報で一番大事にしているポイントは何かご存じですか?

 働くことの重要性です。

 人間は働き続けたら一生健康。
 でも、仕事をやめたら寝たきりになる確率が高まるよと教えることがすべてなのです。

 だから僕は「定年制はやめよう」と話していますが、みんなが元気に働いたら、年金なんていらない。
 年金はあくまで「保険」なので、働けなくなったときのものです。
 社会保険は、元々はビスマルク(1815-1898)がつくったのですね。
 なぜビスマルクがつくったかといえば、当時のプロイセンは、ものすごいブラック国家だったからです。

 大英帝国に追いつこうと思って、石炭を必死に掘り、鉄を山ほどつくったから社会全体がめちゃくちゃ重労働でした。
 50歳ぐらいで背中は曲がり、歩けなくなる。

 ビスマルクは、プロイセンのために働いた人がごはんを食べられないのは、国の責任だと思った。
 だから働けなくなったときの社会保険として年金をつくったのです。
 あくまでもいざというときの保険ですから、年金なんかもらわないほうがみなさんハッピーでしょう。
 そう思いませんか。

 90歳くらいまで元気に働いて、ピンピンコロリでバタッと倒れて死んだらめちゃラッキーでしょう(笑)。人生楽しいでしょう。

 だから少なくとも年金が破綻するとか騒いでいる学者は、日本以外には世界中を探してもどこにもいないし、年金の構造を考えたら破綻するはずがないのです。みんなから集めて配っているだけですから。

――はい、ありがとうございます。
 出口さんの本を読んだおかげで、自分がもうちょっと頑張れる年だという気持ちになれました。

出口 ある口の悪い医者がいっていました。
「お父さん、お母さん、長い間働いてくれてありがとう。
 もう後は私たちが面倒見るから、のんびり散歩でも旅行でもして、のどかにすごしてねというのは、早く寝たきりになってくださいという意味ですよ」と。

――そうですね。もう1つだけ質問いいでしょうか。
 ちょっと眠れなくなってしまった話があります。
 天皇は「大王(おおおみ)」と呼ばれていたという話は本当ですか?

出口 はい、本当です。

――「上皇」はなんて呼ばれていたのでしょうか。

出口 正式には「太上」(だいじょう)天皇」です。
「上皇」という制度は天皇という称号や日本という国号を定めた持統天皇(在位690-697)がつくったもので、それまではなかったのです。

――天皇は「大王」、上皇は「太上天皇」ということは、江戸時代までは「天皇」という言葉すらなかったのでしょうか。

出口 天皇という称号は中国に示すためのものですから、村上天皇(在位946-967)を最後に、江戸時代末期に復活するまでまったく使われていませんでした。
「上皇」は、ずっと「院」と呼ばれてましたね。

――なるほど。

出口 はい、たとえば白河上皇ではなくて「白河院」です。

――スッキリしました、ありがとうございました。

出口 はい。よろしければ、『哲学と宗教全史』の今までのバックナンバーもご覧ください。