ここは長崎県端島。上陸ツアー船のブラックダイヤモンド号は、長崎港を出港、高島を経由して、ついに「軍艦島」に到着した。貯炭場、竪坑桟橋跡、高層アパートなど、目の前に迫り来る廃墟に息を飲む。長崎県が上陸を解禁してからの3年間で、上陸者は22万人を超え、地元に約65億円もの経済波及効果をもたらしたという。今回の旅で、「軍艦島」を眠りから呼び覚ました元住民に話を聞くことができた。その胸に去来するものとは何か。(取材・文・撮影/ジャーナリスト 相川俊英)
波が激しく前日には着岸を断念
ようやく上陸を果たした「軍艦島」
桟橋に飛び移ったクルーが必死の形相でロープをキャッチし、留め金に結びつけた。そのロープを船内のクルーが引っ張り、船を桟橋に横付けする。何本ものロープが桟橋と船の間を行き交った。
「ギ―ギーギーギー!」
船が上下に激しく揺れる度に、不気味な音が鳴り響いた。船の横っ腹に設置されたオレンジ色の発泡スチロールが、桟橋と擦れ合う音だ。
波しぶきが容赦なく、船内に飛び散る。外洋とあって波が荒い。島の周囲は灰色の岸壁で覆われ、その先に廃墟の建物群が屹立する。
ここは軍艦島(長崎県端島)である。上陸ツアー船のブラックダイヤモンド号は午前9時に長崎港を出港、高島を経由して軍艦島に到着した。
50人ほどのツアー客は、固唾を飲んでクルーの奮闘ぶりを見守った。着岸できず、上陸を断念するケースも少なくない。実際、前日がそうだった。ロープを渡したもののうねりが激しく、船の安定が保てない。立木義和船長は、「危険だ」と判断して周遊ツアーに切り替えた。無念の思いが船室内に充満した。
上陸ツアーの料金は、300円の見学施設利用券を含めて4300円。上陸できなかった場合、300円は返金される。ツアー時間は約3時間に及ぶ。ちなみに、昨年度の上陸成功率は81.7%。月別で見ると、4月が最低で69.5%である。
再チャレンジとなったこの日も、好条件とは言えなかった。風が強く、着岸できる可能性は五分五分と見られていた。ハラハラドキドキしながら、接岸作業を見守るしかなかった。
それでも、何本ものロープが船と桟橋の間を行き交ううちに、ギーギーという擦れ合う音が次第に小さくなっていった。船の揺れも落ち着いてきた。