船室の前方で何やら動きがあった。軍艦島(端島)に着岸成功である。午前10時40分、乗客の安堵の声が波のように広がった。丸顔の立木船長が微笑みながら、乗客1人1人に声をかけていた。

貯炭場、竪坑桟橋跡、高層アパート
目の前に迫り来る廃墟に息を飲む

 我々ツアー客は、船の前方右側から桟橋に渡り、上陸を果たした。コンクリートの階段を上がり、島の周囲を囲う護岸堤防の内側に足を踏み入れると、目の前に廃墟となった建物群が迫ってきた。思わず息を飲むような光景だった。

(上)間近に見る軍艦島の岸壁。明治時代から6回にわたり護岸堤防が拡張された。(下)軍艦島を訪れる前に、高島の石炭資料館で軍艦島の説明を受ける。

 外洋にポツンと浮かぶ小島とあって、とにかく風が強い。そして、あちこち歩き回れるような環境にない。がれきが散乱していて危険だからだ。そのため、ツアー客が立ち入れる区域は限定されている。

 我々は、軍艦島オフィシャルガイドの杉本博司さんの後について、舗装された見学通路を歩き、解説に耳を傾けた。

 ブラックダイヤモンド号による上陸ツアーでは、軍艦島を訪れる前に高島見学を行なっている。高島も端島同様の海底炭鉱の島なのだが、島内に石炭資料館がある。そこに軍艦島の100分の1の模型が設置されており、杉本さんがそれを使って軍艦島の詳しい解説をしてくれた。

 島の歴史や概要、炭鉱の仕事や住民の当時の生活ぶり、さらには閉山後のことなどなど。つまり、上陸する前の事前学習、予習である。これが実に有意義だった。解説を聞かずに上陸したら、単に廃墟を眺めるだけのツアーになっていたかもしれない。

 上陸後の見学ポイントは3ヵ所。まずは貯炭場の横。ここから島の岩礁やその上に建てられた神社などがよく見える。そして、目の前に石炭を運んだベルトコンベアーの支柱が並ぶ。まるで、ドミノゲームのように立ちつくしている。

 2ヵ所目は、主力坑だった第2竪坑桟橋跡だ。海底炭鉱に入る入口(出口)で、階段部分だけがかろうじて残っている。採掘現場は海面下1000メートル以上で、気温30度、湿度95%という悪条件下での命懸けの仕事だったという。いわば、「戦場への出入り口」といったところか。