なぜ子どもはアルコールを飲んではいけないのか

 大人はアルコールを飲んでもいいのに、子どもはいけないといわれる。それはなぜだろうか。理由はいくつかあるが、根本的な理由は1つだ。それは、大人は成長しないが、子どもは成長するからだ。

 もちろん成長が終わった臓器も、アルコールを飲むことによって壊れることはある。大人でも、お酒を飲み過ぎれば肝臓を悪くする。

 しかし、成長が終わったものより、成長しているものの方が、さらにアルコールの影響を受けやすい。とくに脳はその影響を受けやすい。脳が神経細胞のネットワークを盛んに形成するのは、幼児期と思春期である。この時期にアルコールを飲むと、ネットワークが正常に形成されない可能性があるのだ。

 そう考えると、妊婦がアルコールを飲んではいけない理由もわかる。妊婦がアルコールを飲むと、そのアルコールは妊婦の体中の水分の中に広がっていく。当然、胎児の体の中の水分にも広がっていく。そうすると、胎児の血中アルコール濃度は、おそらく妊婦の血中アルコール濃度と同じくらいまで上がるだろう。

 もちろん、高校生だってアルコールを飲んではいけない。小学生はもっといけない。でも、胎児はもっともっといけないのだ。

 このように、アルコールにはいろいろとマイナス面がある。それでも、アルコールを飲む人は多いだろう。そういうときには、何に気をつけたらよいのだろうか。

 2番目に大切なことは、適切な飲み方をすることだ。何か食べながら飲み、ろれつが回らなくなったり千鳥足になったりしたら、すぐにやめることだ。

 そして1番大切なことは、ほかの人に無理やりアルコールを勧めないことだろう。

 人類は何千年も前から(もしかしたら、もっと昔から)アルコールを飲み続けてきた。しかし、アルコールが体に及ぼす作用がわかってきたのは、最近のことである。せっかく、そういう時代に生きているのだから、ぜひ適切な飲み方を心がけるべきだろう。

(本原稿は『若い読者に贈る美しい生物学講義』からの抜粋です)