「自分は正義」といいたがる人々
顕著なケースを挙げましょう。他者に対するバッシングのスタイルです。
弱い立場にある者(スケープゴート)を見つけて叩く。古今東西問わず、繰り返されてきた現象ではあります。けれど、みなが容赦なく人を非難する現状は、ちょっと異常に思えるのです。しかも、バッシングをしているのは、一部のクレーマーと呼ばれる人々ではなく、至って普通の人たち。バッシングの対象が見つかれば、みながなりふり構わず次々に飛びついて非難する。この1年のあいだにも、そんな現象が散見されました。
例えば、今年前半に盛り上がりを見せた「公務員はけしからん」という論調。
強い発言力を持つ橋下徹現大阪市長の政策の影響もあったのでしょうか。「すべての公務員は使えない」といわんばかりに公務員批判の声が一斉に高まりました。また、テレビで芸能人の不祥事が露呈すると、当人の人格すべてを否定するような声がネット上で沸き起こる。当人のブログが炎上するような現象も日常茶飯事だったように思います。
生活保護受給問題が遡上に乗った際には、すべての生活保護受給者に厳しい目が向けられる風潮もありました。「肩身が狭いので、受け取りを辞退したいと考えているんです」。診療所を訪れる患者さんのなかには、本当に生活保護が必要な人までそんなふうに相談してくるほどで、世論の高まりはすさまじかった。
ネットなどの普及で、一般人が自由に意見をいえるようになった。そのこと自体にはポジティブな側面もあります。けれど、気になるのは論調が一方通行になりがちなことです。
「あの人が悪い」となれば、擁護するような意見は受け入れられない。それどころか、反対の声を上げた者は「同罪」とばかりに叩かれる側に回される。まさに極端すぎる。「いじめ」にも通じる現象です。
ただ、いじめと違うのは、バッシングをしている人たちが「自分たちこそが正義だ」と確信しているように見える点です。そのせいか、匿名が担保されているネット上では、特に辛らつな声が噴出する。「税金のムダ遣いをしている公務員なんか全員、辞めてしまえ」「働かずに生活保護をもらっている奴は世の中のクズだ」。リアルな世界では聞かないような強い口調のコメントを目にして、うすら寒い思いをしたこともたびたびありました。