2019年10月におけるCPI(生鮮食品およびエネルギーを除く) 前年比前月差
家計の購買力は消費増税後もさほど低下していないようだ。世帯の平均的な生計費を表す消費者物価指数(CPI)の前年比伸び率は、価格変動の大きい生鮮食品とエネルギーを除いて、2019年10月に前月から0.2%ポイント高まった。14年4月の前回増税時に1.8%ポイント高まったことに比べると、物価の上昇幅はかなり小さい。
今回は消費税率の引き上げ幅が小さく、軽減税率制度が導入されたことに加え、幼児教育・保育の無償化が実施された。そのため増税後の各世帯の負担の度合いは、教育無償化の対象となるかどうかで大きく異なる。
就学前の子どものいる世帯の多くは、低中所得の勤労者世帯である。そこで、勤労者世帯の年収五分位階級(※)のうち第1~3分位のCPIを集計すると、19年10月の前年比伸び率は前月から0.5%ポイント低下した。子育て世帯は教育無償化によって支出を増やす余裕が生まれたとみられる。
一方、教育無償化の恩恵をほとんど受けない世帯主年齢60歳以上の無職世帯のCPIは0.9%ポイント高まった。ただし、こうした世帯の多くは増税後に年金生活者支援給付金を受給したり、介護保険料が軽減されたりしている。プレミアム付商品券も購入できるため、世帯の購買力はCPIが示すほどには低下していない。
総じて見ると、増税後の家計の負担増は限定的だったことから、個人消費は駆け込み需要の反動減で一時的に落ち込むものの、消費の腰折れは回避されるだろう。
今後の物価動向で気掛かりなのは、消費増税対策として実施されているポイント還元制度の影響だ。中小小売店などでキャッシュレス決済を行うと、消費額の最大5%がポイント還元される仕組みだが、制度対象外の大手小売店などが独自に還元や値引きを打ち出しており、価格競争が激化している。
家計にとっては安く購入できるメリットがある半面、価格競争が行き過ぎると、企業は人件費の調整に迫られる。賃金が伸び悩み、物価と賃金にさらなる下押し圧力がかかるようになれば、デフレからの完全脱却に水を差しかねない。
(※)世帯を年間収入の低い方から順番に並べ、それを調整集計世帯数の上で5等分して五つのグループを作った場合の各グループのことで、年間収入の低い方から第1、第2、第3、第4、第5五分位階級という
(大和総研シニアエコノミスト 神田慶司)