次に、ヘアカットの一連の行動を一つひとつに分ける形(スモールステップ)にして、イラストで表現し、その絵カードを並べて見せる。口頭でなく視覚で説明したほうが理解しやすい子どもは少なくないからだ。

 髪を切ることを嫌がる場合は、美容師が「わかった。イヤなんやな」と一度、子どもの気持ちを受け止める。そして、「10分ならいい?20分ならいい?どちらにする」と質問して、次の行動を子ども自身に選ばせる。そのうえで髪を切る前に「10分だけ、切っていいですか」と相手に確認し、残り時間が色でわかるタイマーを使って時間を管理する。

講習会に参加し、そらいろプロジェクト京都主催のスマイルカット講習を受講した店舗は「スマイルカット実施店」として登録でき、ホームページで紹介される
そらいろプロジェクト京都主催のスマイルカット講習を受講した店舗は「スマイルカット実施店」(くわしくはこちら)として登録でき、ホームページで紹介される Photo:そらいろプロジェクト

「発達障害の子どもは『困った子どもでなく、困っている子ども』です。僕たち大人ができることは、笑顔で手を差し伸べること。ヘアカットの悩みは僕たち美容師で楽しく解決しよう」と赤松さんは言う。

 そのとき、絶対にうそをついてはいけない。うそをついたら、次から子どもはその人の言葉を信頼しなくなるからだ。怒ったり、おさえつけたりしてもいけない。怒れば怒るほど、心のシャッターを閉じてしまう。

「ヘアカットができるようになることで、他のことにもチャレンジできるようになった子どももいます。散髪がきっかけで子どもの可能性を広げられるなら、美容師としてこんなうれしいことはないですね」と赤松さんは言う。

 さらに、赤松さんは5年前にNPO法人そらいろプロジェクト京都を設立し、スマイルカットのノウハウを全国の理美容師に普及させる活動をしている。発達障害の子どもへの対応を理論づける形で、マニュアルを作成し講習会を開催する。特に、「ニューロ・ロジカル・レベル(神経学的論理レベル、NLP:神経言語プログラミングモデルの一つ)」と「ABA(応用行動分析)」から、いくつかの考え方や技法を取り入れている。

「ニューロ・ロジカル・レベル」からは、物事の考え方や捉え方の価値観を変える方法を指導する。例えば、子どもが悪いことをしたときに「『あなたは、悪い子ね』ではなく、『あなたはよい子だから、これはやめようね』という言い方をするといい」など、子育て全般にも使えるアプローチ法をヘアカットに取り入れる。

関東地区での講習会を運営するメンバー
関東地区での講習会を運営するメンバー Photo by M.F.

「ABA」からは、ほめることやご褒美などの快刺激により行動の強化を促し、成功体験を増やすことを指導する。一方、嫌な体験は負の価値観を生み出し、行動を弱化させる。負の価値観を正の価値観に変えることは難しいことも解説する。「押さえつけて髪を切ってはいけないのは、それが嫌な価値観、つまり、トラウマになりやすいからです」と赤松さんは説明する。

 赤松さんはこのマニュアルをテキストブックとして書籍化できないかとも考えている。

 東京都中野区のヘアサロン「potamu」では、オーナーの櫻井亮(まこと)さんはスタッフの希望者全員に研修として、5年前から毎年、スマイルカット講習会を受講させている。稗田(ひえだ)美香さんと東(ひがし)めぐみさんは3回目の受講とのこと、「講習を受けた後、実際にお子さんに対応して、また講習を受けることで確認できます」と感想を話してくれた。