40歳を目前にして会社を辞め、一生懸命生きることをあきらめた著者のエッセイが、韓国で売れに売れている。現地で25万部を突破し、「2019年上期ベスト10」(韓国大手書店KYOBO文庫)、「2018年最高の本」(ネット書店YES24)に選ばれるなど注目を集め続けているのだ。
その本のタイトルは、『あやうく一生懸命生きるところだった』。何とも変わったタイトルだが、現地では、「心が軽くなった」「共感だらけの内容」「つらさから逃れたいときにいつも読みたい」と共感・絶賛の声が相次いでいる。日本でも、東方神起のメンバーの愛読書として話題になったことがあった。
そんなベストセラーエッセイの邦訳が、ついに2020年1月16日に刊行となった。この日本版でも、有安杏果さんが「人生に悩み、疲れたときに立ち止まる勇気と自分らしく生きるための後押しをもらえた」と推薦コメントを寄せている。多くの方から共感・絶賛を集める本書の内容とは、果たしていったいどのようなものなのか? 今回は、本書の日本版から抜粋するかたちで、嫉妬に対する考え方について書かれた項目の一部を紹介していく。

嫉妬なんて、ドングリの背比べにすぎない

 それにしても、なぜ親という生き物は、ほかでもない「友人の子ども」と僕らを比べようとするのか? 親の口から「マーク・ザッカーバーグはFacebook でずいぶん稼いでるそうじゃないの。それに比べてあんたは……」なんて小言は一度も聞いたことがない。もっと優れた人たちがたくさんいるのに、なぜよりによって彼らの友人の子どもが、僕らの親を苦しめるのだろうか?

 確かに、マーク・ザッカーバーグは僕らの気持ちをわずらわせたりしない(もちろん、めちゃくちゃうらやましくはあるが)。僕らが激しい嫉妬を覚えるのは、自分と同等、または格下に見ている相手だ。自分よりイケてないと思っていた相手が急に美しい恋人を連れて現れたとき、自分と同じような悩みを抱えている会社の同期が投資でちゃっかりお金を増やしているのを知ったとき、僕らは狂いそうなほどの嫉妬を感じる。

 美男美女カップルのウォンビンとイ・ナヨンが結婚したところで、僕らは1ミリも嫉妬しない。ビル・ゲイツが所有する莫大な資産について、眠れないほど妬んだりもしない。僕らが嫉妬するのは、自分と同等または格下だと信じていたやつらが”自分にないもの”を手にしたときだ。はなから”越えられない壁”の向こう側の人々は憧れの対象ではあれ、嫉妬の対象ではない。

 だから親たちの気持ちを刺激するのが、彼らの友人の子どもというのも納得がいく。似たレベルの人間同士、あいつよりマシ、こいつよりマシだとドングリの背比べをしながら生きていくのが人間世界なのかなと思う。

 僕らのことを高いところから見ている人がいたらどう思うだろう? きっとこんなことを言うんじゃないだろうか?

「不毛じゃのう、ふぉっふぉっ」

(本原稿は、ハ・ワン著、岡崎暢子訳『あやうく一生懸命生きるところだった』からの抜粋です)

ハ・ワン
イラストレーター、作家。1ウォンでも多く稼ぎたいと、会社勤めとイラストレーターのダブルワークに奔走していたある日、「こんなに一生懸命生きているのに、自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、やりきれない気持ちが限界に達し、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞める。フリーのイラストレーターとなったが、仕事のオファーはなく、さらには絵を描くこと自体それほど好きでもないという決定的な事実に気づく。以降、ごろごろしてはビールを飲むことだけが日課になった。特技は、何かと言い訳をつけて仕事を断ること、貯金の食い潰し、昼ビール堪能など。書籍へのイラスト提供や、自作の絵本も1冊あるが、詳細は公表していない。自身初のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が韓国で25万部のベストセラーに。