40歳を目前にして会社を辞め、一生懸命生きることをあきらめた著者のエッセイが、韓国で売れに売れている。現地で25万部を突破し、「2019年上期ベスト10」(韓国大手書店KYOBO文庫)、「2018年最高の本」(ネット書店YES24)に選ばれるなど注目を集め続けているのだ。
その本のタイトルは、『あやうく一生懸命生きるところだった』。何とも変わったタイトルだが、現地では、「心が軽くなった」「共感だらけの内容」「つらさから逃れたいときにいつも読みたい」と共感・絶賛の声が相次いでいる。日本でも、東方神起のメンバーの愛読書として話題になったことがあった。
そんなベストセラーエッセイの邦訳が、ついに2020年1月16日に刊行となった。この日本版でも、有安杏果さんが「人生に悩み、疲れたときに立ち止まる勇気と自分らしく生きるための後押しをもらえた」と推薦コメントを寄せている。多くの方から共感・絶賛を集める本書の内容とは、果たしていったいどのようなものなのか? 今回は、本書の日本版から抜粋するかたちで、人生のとらえ方について書かれた項目の一部を紹介していく。
夢を叶えられない人生だって、捨てたもんじゃない
誰にでも思い描く夢がある。ほんの一握りの人間だけがその夢を叶え、そうでない人間は別の道を生きることになる。いうなれば、そうでない側の人生は、”カニ”の代わりにあてがわれた”カニかまぼこ”みたいなものだ。
期待していたレベルにはとうてい満たないカニかまぼこを前に、僕らは思い悩む。ある者はカニかまぼこをカニにしようと努力し、またある者は我慢できずカニかまぼこを食べる。またある者は、こんなはずないとカニかまぼこさえも無視してしまう。
でも、期待に満たない自分の姿だって、捨てたもんじゃないと思って生きるほうがいい。夢を叶えられないと幸せになれないなんて、思い違いもいいところだ。夢を叶えられたら素敵なことだが、叶えられなかったとしても、ただそれだけのこと。挫折感にさいなまれるくらいなら、「ああ、惜しかったなあ」くらいにさらっと払いのけたほうがいい。今、与えられた生き方で幸せを追うのにも、人生はあっというまなんだから。
言い訳して生きたっていい
理想通りにならなくても人生は失敗じゃない。人生に失敗なんてものはない。
それは負け組がよく言う「合理化」「自己防衛」だと非難されるかもしれない。そう言われると返す言葉がない。でも、合理化、自己防衛は、つまるところ言い訳であっても、そんなに悪いとは思わない。自分の生き方を肯定し、愛し、大事にして、納得することがそんなに悪いことなのだろうか?
僕は自分の生き方をもっと好きになれるのなら、何万回も「合理化バンザ~イ!」と叫びながら幸せに生きるほうを選ぶ。自分が自分の人生を愛さずして、誰が愛してくれるだろうか? 理想通りにならなくても人生は終わりじゃない。僕らは与えられた人生とともに生きていかなければならない。
だからこれは、「人生をどう捉えるか」という観点の問題だと思う。カニかまぼこだって栄養価が高くて美味しい。今、僕らの人生はカニじゃなくてカニかまぼこなのだから、元気が湧いてこないわけがない。
(本原稿は、ハ・ワン著、岡崎暢子訳『あやうく一生懸命生きるところだった』からの抜粋です)
イラストレーター、作家。1ウォンでも多く稼ぎたいと、会社勤めとイラストレーターのダブルワークに奔走していたある日、「こんなに一生懸命生きているのに、自分の人生はなんでこうも冴えないんだ」と、やりきれない気持ちが限界に達し、40歳を目前にして何のプランもないまま会社を辞める。フリーのイラストレーターとなったが、仕事のオファーはなく、さらには絵を描くこと自体それほど好きでもないという決定的な事実に気づく。以降、ごろごろしてはビールを飲むことだけが日課になった。特技は、何かと言い訳をつけて仕事を断ること、貯金の食い潰し、昼ビール堪能など。書籍へのイラスト提供や、自作の絵本も1冊あるが、詳細は公表していない。自身初のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』が韓国で25万部のベストセラーに。