今後10年間で予想される
中国からの海外旅行者の増加数(2019年⇒28年)

テスト出所:オックスフォード・エコノミクス

 2020年にインバウンド観光客4000万人という政府目標を達成できるかどうかは微妙なところだ。オリンピック・パラリンピックの年には通常の観光客が敬遠する傾向もあり、あと一工夫が求められる。

 マクロ経済変数を基にする当社の海外への観光客数の予測によると、今後10年間で最大の増加が期待できるのは中国だ。28年にかけて年間海外旅行者は6600万人増加し、2位の米国(4500万人増)を大きく上回る。この増加分のうち、4400万人がわが国を含むアジア太平洋地域に向かうことが予想される。

 中国のGDP成長率は今後どんどん減速していく。当社の予測では、19年の6%程度から10年後には4%台半ばにまで低下する。

 それでも中国からの海外旅行者が増え続けるのは、生活の質と水準が向上するからだ。中国の人口動態や経済成長から中間~高所得層(年間所得3万5000ドル以上)の変化を予測すると、今後10年間で7400万人も増加する。これは2位のインド(1200万人増)、米国(900万人増)と比べて際立っている。1人当たりの旅行支出にも伸びしろがある。中国人が国内・海外旅行をする際の年間宿泊日数は平均して1人当たり2泊にすぎない。これは日本人の4.5泊、米国人の9泊、英国人の13泊と比べて極めて少ない。

 中国人の観光は85%が国内旅行で、これは米国と同程度であるが、世界平均の68%より高い。英国(33%)やドイツ(50%)まではいかなくとも、海外旅行の割合が増えるのは自然なことだ。

 こうした今後予想される中国からの大きな波に乗ることができるか否かが、わが国のインバウンド観光産業の帰趨を定める。それには長期的な観点からの先回りの設備投資が重要で、その際には観光客数増加という量の面だけでなく、所得増に伴う支出態度の変化といった質の面での対応(富裕層ビジネスの強化など)も求められる。対中国ビジネスに長期的に取り組むのはマクロ経済的にも政治的にもリスクが大きいが、リスク管理をより精緻に適切に行えば、そのリターンもまた大きい。

(オックスフォード・エコノミクス在日代表 長井滋人)