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データサイエンティストの冒険

【新連載】アナリティクスとの出会い――知る力、予見の力がもたらす新たな世界

工藤卓哉 [アクセンチュア]
【第1回】 2012年8月6日
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科学的知識によって否定された飛行機の実用化を
ライト兄弟の熱意が実現

 もちろん分かりやすく落とし込む業務運用が成功のカギとなることは言うまでもない。TomとFarzadが常に言い続けて、筆者がアメリカを離れる時にも教えてくれたことがある。それは、分析結果を自己満足的に出すだけの統計学者になっては駄目だという視点である。分析力を使えるかたちで、正しいことに使える実務者になりなさいということである。

 もしアナリティクスを何のためにしているのか忘れそうになった時は、統計の結果に一喜一憂するのではなく、自分の作業が最終的に還元される受益者(患者であれ消費者であれ)のためになっているかを常に真剣に考えなさい。そう繰り返し助言してくれた。

 彼らは客観的データによる交互作用の検出や副作用の検出、疾病の重症化傾向や、疫病の伝播パターンなどを事前予測し、医療現場に知見として返し、それらを事前教育、予防することで、高い確度で政策設計者として正しい道筋を受益者に照らせると信じていた。筆者もまたそんな彼らの後ろ姿と高い志を持ったアプローチを信じていたし、これからもずっと変わることなくアナリティクスのもたらす予見力を信じて活動していくであろう。

 大切なことは、政策制度設計者や、企業経営者の皆さんの意思決定の精度と速度を上げることである。これまで勘で培ってきた部分を否定せず、勘を補正する一つのコンパスや指標として、アナリティクスの予見力を使い始めるのがいいだろう。さらに、トップダウンで現場へ埋め込むのでもいいし、現場への指標として緩く展開し始めるのでもいいだろう。アナリティクスが企業経営の先を照らすコンパスになり、さらに予見力をもたらすのであれば、そうした分析結果は生き残り、現場で活用され、意思決定における知見の結晶として、企業DNAとして脈々と受け継がれていくだろう。

 統計の分野で世界的に広く使われているAIC(赤池情報量規準)の考案者であり、アナリティクスの実務への適用で成功を収めた故赤池弘次先生は、統計に関する著書の中で「知識の有効利用」について、端的にこう触れている。

最後に強調したいことは、何かを実現しようとする目的意識の重要性です。セメント焼成炉或いは火力発電所のボイラの制御の実現では、関係する研究者の粘りと迫力には目覚ましいものがありました。

 赤池先生、TomとFarzad、そして優れた企業経営者の皆さんに共通していること、それはこの目的意識や夢の持ち方だ。赤池先生はこうも指摘している。飛行機の実用化において、科学者が科学的知識を活用して、飛行機の実用化は無理だと理論構築した裏側で、ライト兄弟は、純粋に飛ぶことを目的として知識を活用し、飛行機の実用化という夢の実現に貢献した。これこそが真理ではないか。

 知識をどう活用するかという目的意識次第で、達成できる結果やアウトプットは大きく異なる。経営管理においても同じだろう。科学的アプローチを生かすも殺すも、それを使う側次第であり、どこに向かいたいかという目的意識に大きく依存することは、歴史がそれを証明している。アナリティクスの予見力。日本の経営が、この予見力をてこにして、少しずつ変わっていくことを期待したい。

 この連載では、統計解析の技法に全く事前知識のない方々でもお読みいただけるよう、連載を通じて、専門知識を構築していけるような構成に配慮するとともに、単発でお読みいただいても十分価値ある一回完結型の内容にもしたいと考えている。このためアナリティクスの過去から、現在、そして未来について俯瞰し、一部についてはDeep Diveしてより具体的に触れていきたい。

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工藤卓哉
[アクセンチュア]

Accenture Data Science Center of Excellence グローバル統括 兼
アクセンチュア アプライド・インテリジェンス マネジング・ディレクター
ARISE analytics Chief Science Officer (CSO)

慶應義塾大学を卒業しアクセンチュアに入社。コンサルタントとして活躍後、コロンビア大学国際公共政策大学院で学ぶため退職。同大学院で修士号を取得後、ブルームバーグ市長政権下のニューヨーク市で統計ディレクター職を歴任。在任中、カーネギーメロン工科大学情報技術科学大学院で修士号の取得も果たす。2011年にアクセンチュアに復職。 2016年11月より現職。 データサイエンスに関する数多くの著書、寄稿の執筆、講演活動を実施。


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