フラットな文化と実力主義を徹底しているソースネクストでは、実際に優秀な若手がどんどん登用され、高い報酬を得ています。「そんなに完璧に実力主義を敷いて、年齢にまったく関係なく、できる人間がどんどん上がる仕組みにしたら、会社がギスギスするんじゃないか」と問われることもあるそうですが、同社の松田社長は「それは逆だ」と意に介しません。その真意について、著書『売れる力 日本一PCソフトを売り、大ヒット翻訳機『ポケトーク』を生んだ発想法』よりご紹介します。

 会社にとって大事な指標の一つは利益です。そして利益が大きくなれば、社員一人ひとりの給料もボーナスも増えるし、株価も上がります。株価が上がれば、株やストックオプションで自分の資産も増えるわけです。

 逆に、会社が本当に実力のある社員を幹部として登用しないと、困るのは社員自身です。仕事ができない人が昇進した結果、利益が上がらず給料も上がらない。ボーナスも増えない。株価も上がらない──そんなスパイラルにはまっては、みんな困ります。だから、20代で役員が出てきても、誰もが優秀だと認める人であれば誰も文句を言わないはずです。実際、弊社専務の小嶋は入社2年目から、20代でホームランを打ちまくりました。

 サン・マイクロシステムズの契約を勝ち取ったのは彼であり、英語に堪能で、アメリカの弁護士と一対一でバリバリ交渉していました。野球でいえば、明らかにバッティングもすごいし、守備もうまい、オールラウンドプレーヤーでした。それこそ、巨人の松井秀喜選手が、「どうして20代前半で巨人の4番を打っているのか」なんて疑問に思った人は誰もいなかったのと同じです。

 むしろ、当時から他の社員も、小嶋の登用を歓迎していたと思います。会社の業績を上げてくれるわけですから。優秀でない人が幹部にいて、業績を落とし続けたほうが、よほどイヤなはずです。

 ソースネクストでは、有能な若手が出てきて起用しなかったら、「どうして起用しないのか」とむしろ上司が叱られます。

 そして、こういうカルチャーが浸透すると「自分の部下を自分の上司にする」などというすごい上司が現れるわけです。実際、今のもう一人の専務の藤本がそうでした。最年少で役員になった小嶋を一目見て、小嶋の13歳年上の藤本は私にこう言ったのです。

「私のミッションは、小嶋さんを私の上司にすることです」

 そのくらい、小嶋のポテンシャルを買っていました。そして、本当に彼を自分の上司に育て上げてしまったのです。自分の部下を自分の上司にしたい、と育てていく──なかなか言えることではありません。藤本は小嶋の部下として働いていましたが、2018年から、小嶋と同じ取締役専務執行役員のポジションになりました。

 こうした実力主義が、本来あるべき組織の姿だと思います。プロ野球と同じです。4番を打てる選手が「若いから」という理由でベンチを温めていたら、フロントや監督は何をやっているのか、と言われるはずです。それでは勝負に勝てない。会社も同じです。

 製品を売るときも、人材の評価基準をつくるときも、いったい何が重要なのか、ソースネクストは徹底してそれを追求します。今、世界一エキサイティングな会社を目指そうというとき、どういう組織であるべきなのか。若くても有能な人材がリーダーに就く組織でないといけないと思うのです。
そして、会社が目指す目標と、組織の目標がきちんと合致していることも大切です。会社が良くなった分、きちんと社員個人にも跳ね返ってくる仕組みにする。

 そうでないと、「どうして働かないといけないのか」「どうしてあの人のためにやらないといけないのか」などというグチが出てきます。給料も上がらないし、資産も増えない。これではモチベーションが上がるはずはありません。

 「できるヤツにクリーンナップを打ってもらおう」という気持ちに、みながならない。チームが勝っても嬉しくない。なぜなら、自分にとってプラスにならないからです。それより給料を上げてくれ、好きな仕事をさせてくれ、などと好き勝手なことを始めてしまいます。

 「好きな仕事って何だろう」と考えるとき、開発者であれば、本当はより多くのお客さまに使っていただき、お客さまに喜ばれる製品を作ることであるはずです。ところが、個人が好き勝手に面白いものを作ることだと勘違いしてしまったりする。そして売れなかったとき、「量販店が悪い」「流通が悪い」などと、自分たち以外に理由を求める。最悪の場合は「わかってくれないお客さまが悪い」と言い出す始末です。

 幸い、ソースネクストの実力主義文化のおかげで、新卒社員に加え、優秀な中途採用者も集まり、切磋琢磨しています。みながどの大学を出たかは、ほとんど話題にもなりません。誰も気にしていないのでしょう。年齢も気にしません。

 ソースネクストの新卒の初任給は月給31.5万円で、日本で7位(東洋経済オンライン「初任給が高い会社」ランキング2017年4月6日配信)にランキングされたことがあります。さらに、インセンティブ・ボーナスやストックオプションがもらえます。

 私は、全般的に日本の特に若い人の給料は安すぎると思っています。しかも、どんなに会社に利益をもたらしても、若いからという理由で分配にありつけない場合が多い。ましてや、ストックオプションももらえない。

 シリコンバレーでは、新入社員の年収が10万ドルからという企業もまれではありません。これからの人材獲得競争は、そのレベルと戦わなければならないのです。

 ただ、採用の段階でシビアにチェックする点があります。それは「人格」です。性格のよさも伴っていないといけない。ものすごく高い能力を持っていても、相手によって態度を変えるような人は採らないようにしています。

 本当の意味で「いい人」を、採用しているのです。

 私は野球好きなので、ついたとえてしまうのですが、高校野球で強いチームか弱いチームか、一目で見分ける方法があります。それは、メンバーの学年構成です。甲子園の出場校の中でも、1年生や2年生がレギュラーに交じっているチームは強いのです。

 強豪の野球部は、1年生のときから休まずにずっと辛い練習をしていますから、監督も情にほだされれば「3年生を出してやりたい」と思ってしまいます。でもそこで温情に走らず、本当に実力のある選手をレギュラーに選出できるかどうかが、真に強くなれるかどうかの分かれ道です。野球で秀でた人間は、年齢問わず突出しています。そういう選手を、1年生や2年生からきちんと使うチームは強い──つまり実力主義が徹底しているといえます。会社も同じだと思います。

 優秀な人の採用・育成と、彼らが責任を持って仕事に取り組める環境作りは、そのどちらが欠けても成り立たないと考えています。