複雑性が増した事業をいかに説明するか
朝倉:事業がある程度進捗しているスタートアップで、特定のプロダクトは既に仕上がっている一方で、新たな事業を始めようとしている場合、事業計画作成の複雑さが増しますよね。
既存事業は既に実績が出ており、計画に蓋然性があったとしても、新たなプロダクトはシード段階という状況で、なおかつ新規事業の方の成長期待度が大きいといった場合、事業計画の作り方も複雑になってしまいます。
小林:これは上場後によく起こりますよね。前職の時にもありました。全く当たるかどうか読めないようなフェーズの事業と、着実に読める事業が同居する時の事業計画の作り方は、多くの会社があるタイミングで出会い、悩むと思います。
新規事業には投資枠やコスト枠のようなものを置いて、どれくらいのチャレンジまでなら許容するかの関係性を握るのがいい気がします。
村上:上場企業において、投資家は特段、長期の計画を発表することを求めていないじゃないですか?
小林:そうですね。大体3年、長くて5年くらいですかね。
村上:大企業になればなるほど、足元をしっかりと固めて結果を出しておけば、長期の計画については、「こういうマーケットに対してこういう競争力で事業を開発します」という話で投資家は理解すると思います。
一方で、スタートアップの段階で、やたらと曖昧なビジョンや将来像に無理やり数字を合わせたような計画を作ってしまうと、逆に全体の計画の確からしさ、信頼性が下がってしまうでしょう。
スタートアップであれば、短期・積み上げ式の作り方と、長期・ゴール逆算式の作り方の2つをうまく使い分ける必要があります。細かく積み上げている数字はしっかり予算ベースで作成しながら、長期的な目標に関しては、大きなビジョンやTAM、競争戦略を示し、投資家と対話できるのが理想ですよね。
無理やり大きな絵を描いて、それだけに事業の説明が偏ってしまうと、朝倉さんが言った「事業計画の複雑性」は乗り越えづらいと思うんですよ。最悪のケースは、投資家からは「あいつ、言ってることザルだな」と思われてしまい、作ってる側は「こんなにすごいビジョンを語っているのに、相手に全く理解力がない」と憤慨するいった齟齬が起きてしまうことです。
事業運営の複雑性が高い時には、単に数字だけでなく、対話を重ねることで理解を深めてもらうといったスタイルを採らないと苦しいかもしれません。