映画に現れる
深センの歴史とリアル

 低予算映画だけあって、ストーリーには突っ込みどころが多い。筆者は国際法の専門家、ソフトウェアや電子工作の愛好家たちと一緒にこの映画を見たが、

・実際の開発手法やロボットのメカニズムなど技術考証
・特許訴訟のきっかけや過程

 などの、映画の根幹であるスタートアップの成長ストーリーに関わる部分は、それっぽい単語を適当に繋げた中身のないものだった。にもかかわらず、この映画は異常なリアリティを持っている。

映画撮影に使われた電気街の空き店舗映画に登場した店舗。電気街の空き店舗をそのまま使って撮影が行われた

 架空のストーリーに基づく映画であるにもかかわらず、映像の多くは街のロケで撮影されており、セットを最小限しか使っていない。許がロボットを売っている電気街の「1m売り場」と呼ばれる小店舗も、余がスマホを修理している露天同様の小店舗も、実際に電気街の店舗を利用して撮影されたものだ。電気街を走り回ってロボットに必要な部品を買い集めるシーンもそのままだ。ネジを買うシーンもアルミのステムを買うシーンも、電気街で実際にその製品を売っている店で、周りに通行人が映り込む営業中に撮影されている。

 彼らが投資を受けてスタートアップ企業となり、ロボットを開発する研究所も、国際的なハードウェアアクセラレータ「HAX」のラボをそのまま使って撮影されている。また、劇中で主人公たちが開発するロボットは、実際に電気街出身のスタートアップ「城市慢歩」の協力を受けたものだ。作中の小道具についても同じである。ロボットプログラマーの江が使うコンピュータが華強北電気街出身の格安PCブランド会社「神舟」であることや、作中に現れる食事シーンなどでは街で売っているものをそのまま使っていることなど、サイバーパンクな街である華強北の日常を切り取ったディテールが、映画のリアルさを増している。

「同じ1m売り場から一人は大富豪に、もう一人はそのまま」「スマホの修理屋が、様々なスマホの部品を組み合わせて新しいスマホを作る」「数時間歩き回るとロボットの部品が揃う」などの舞台設定、働き過ぎのスタートアップでメンバーが倒れ、気づいたら病院にいるシーンや、出稼ぎ民の多い深センで、主人公の許が母親に広東語で説教されるシーンの「私と夫が出稼ぎで、1インチ1インチ深南大道を作らなかったら、今のお前の生活はないのよ」という言葉と、面倒くさそうに標準中国語(普通語)で応対する許とのやりとりなどは、世界最速で成長した街であり、今はスタートアップの街である深センの日常風景だ。