創業前に期待値をすり合わせることの重要性
朝倉:流動性の自由を持たせ過ぎてるリスクもある一方、逆もしかりで、ガチガチに制限しているのも結構リスクだと思います。たとえば、イグジット前に会社を去る場合、会社の業績に関係なく、出資時の価格で株式が買い取られてしまうといった、ガチガチの創業者間契約が交わされているケースですね。
会社を立ち上げたタイミングでは、みんないつまでも一緒に会社経営に取り組んでいくものだと思っているものです。ですが、事業がうまく伸びるにつれ、組織の成長スピードについていけない創業メンバーが出てくる可能性が相応にある。実際に見るケースですが、そんな状況であっても、その創業メンバーにとっては会社を去ると全くリターンを得られないため、無理にでも組織にしがみつくインセンティブが働く。
逆に言うと、そこまで貢献した初期メンバーに対して、全く金銭で報いることのできない設計というのは、それはそれでアンフェアだと感じます。
村上:全く同感です。ただ難しいのは、創業前に辞めるときの話をするということは、婚前契約で結婚前に離婚の話をするのに近いということです。心情的な抵抗感はありますよ。「よし今から一緒に頑張ろう」という時に、「俺が2年後に会社を抜けた時の条件はこうで……」といったように具体的な条件を整えるのは、どうしてもやりづらいですよね。だから、全く何も条件を決めていないか、あるいは極端に厳しい条件になってしまうのではないでしょうか。
小林:はい。まさにそこの期待値がずれていることが、揉め事が起きた場合の根源にある気がします。投資家と話をしていても、「セカンダリーは全然OKでしょう」という考え方の人と「駄目でしょう」という考え方の人、両極端に分かれるイメージがあります。人によって考え方に大きな差があると感じるので、事前にそこの期待値をにぎること、これがまず契約の手前で重要なのではないかと思います。
村上:一対一の関係に閉じた話であれば、期待値のコントロールもある程度できるわけですが、結婚と違うのは、事業が成長するに従って、新たなステークホルダーが増えるということですね。そうした中には、創業初期の当事者とは全く違った考え方を持った人も入ってくることでしょう。一対一の関係性が一対多の関係に影響を及ぼす以上、ある程度きちんと決めておくべきだという考え方もできますよね。
朝倉:創業後に増えていくステークホルダーというのは後から、増える親族みたいなものですから、価値観に違いがあるのは当然という前提に立っておくべきなのでしょう。それを踏まえて、創業初期の段階に株主の間で会社の方針をきちんと決めておくことが慣行として確立するとよいのかもしれません。
村上:そう思いますね。それが結局は自分たち自身の幸せになり、後から入ってくるステークホルダーとの関係性においても無駄なトラブルを避けることにつながるわけですから。あまり遠慮せずに、初期に期待値コントロールをしたり、契約書に落としたりするといいですよね。そうした取り組みが広がれば、セカンダリーマーケットが充実して、柔軟性が高い経営が実現でき、引いては会社の成長にもつながっていくのだと思います。