長谷工コーポレーションが売り出した“不景気対応型”マンションが人気を集めている。この3月から販売を開始したが、すでに59戸中36戸が売れ、連休前に完売しそうな勢いだ。
同条件の近隣物件より約10%安いが、これは“不要”なものを限界までそぎ落とすことで建設費を抑えたため。たとえば、ディスポーザーや浄水器、IHクッキングなどはやりの設備はもとより、通常マンションに標準装備の下駄箱、トイレの棚、台所の吊り戸、作り付けクローゼットなどもまったくない。共用設備に至ってはエントランスルームのみ。間取りも3タイプしかないが、単純な設計のため、コンクリートの使用量も通常より少ない。
この結果、建設費を通常のマンションより2割ほど下げ、販売価格も12~13%下げることができる。シンプルなぶん、修繕積立金も安上がり、と顧客にもメリットが大きい。
じつはこのマンションは、ディベロッパー側の注目も集めている。というのも、現在出回っている低価格マンションは、各社が採算度外視で在庫を放出しているもの。在庫がさばけたあと、新たに建設するマンションをどうするかは各社の悩みの種だ。建築部分のコストをいかに抑え、利益を出しながら販売できるようにするかは共通の課題だった。建設業者でもある長谷工に対して、すでに20社ほどの引き合いがあり、数社は自社物件への採用を決めたという。
これまで、マンションには超高級商品はあっても、ここまでスペックを節約した廉価商品はなかった。また、「乳幼児がいてバギーがあるなど、標準仕様の下駄箱はむしろ不要な世帯もある。だが今まではこれを取りはずすと逆にコストがかかっていた」(辻村浩之・長谷工アーベストマネージャー)。
景気が冷え込めば冷え込むほど、こうしたマンションが事業者・消費者からの支持を集めるのは道理といえる。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)