相続税と言えば、これまで富裕層の話と思われていた。だが、早ければ2年半後に対象者は一気に拡大しそうで、その網の目は一般サラリーマンまでも捉えようとしている。そんな来るべき大増税時代の“前哨戦”がすでに勃発。無縁のはずの相続税にあえぐ人々が現れる一方、早くも対策に走る富裕層も。迫る相続税増税の中身を明らかにする。
母を同居させる手はないのか?
降って湧いたような“争族”
「何とか、母を自分の家で同居させる手はないのか」──。
東京都に住む専業主婦の柳原由美子さん(仮名)は目下、降って湧いたような“争族”に、心中穏やかでない日々を過ごしている。
齢80を越えた母親が一人暮らしする都内の実家に、熟年離婚して独り身となった妹が、突然転がり込み、半ば強引に同居を始めたからだ。
人づてに聞かされた妹の狙いは、母名義の実家の相続と、相続税逃れだという。妹はかねて「姉には家まで買ってあげた。私には何もないなんて不公平だ」と周囲によく愚痴を漏らしていた。
実際、柳原さんの住む家は、母に買い与えられたもので、名義は母のままだ。
柳原さんが焦る理由。それは、2010年度の税制改正における「小規模宅地等の特例(小規模宅地特例)」の見直しにある。
この特例は、自宅や自分が経営する会社の社屋が立っている土地などの相続税評価額を最大80%減額する制度だ。
自宅の土地に80%減額が適用されれば、大半の人にとって相続税は無縁のものとなる。この特例を受けられるか否かで、不動産相続には、まさに天地ほどの開きが生じるのだ。
ところが、改正された10年度以降、自宅に同居し、かつ、持ち家がないという条件を満たさなければ、子は80%減額を受けることができないなど、厳格化に大きく舵が切られた。
あの手この手で母を自分の家に転居させようとする柳原さんと、それを阻止しようとする妹。かくして2人の間で、母を引っ張り合う綱引きが開始された。