AI時代にこそ、「共感」が活動資本になる

新井:マイクロソフト社のCEO、サティア・ナデラ氏のこんな言葉があります。

「他者に共感する力をAIが身につけるのは極めて難しい。だからこそ、AIと人間が共生する社会においてそれが価値を持つ。AIが普及した社会で一番貴重なのは、他者に共感する力を持つ人間だ」
「円」を手放し、「縁」を貯める<br />共感資本でつくる“新しいお金”の定義新井和宏(あらい・かずひろ)=写真左
株式会社eumo 代表取締役/鎌倉投信株式会社 ファウンダー。詳細なプロフィールはこちら
高橋博之(たかはし・ひろゆき)=写真右
株式会社ポケットマルシェ代表取締役CEO/『東北食べる通信』創刊編集長。詳細なプロフィールはこちら

 現在のAI技術で、人間の脳はほぼ代替できます。これに対して、心の領域はまだ代替できないと言われています。つまり、人件費が高くて専門知識が必要な仕事や、人の心に寄りそわない仕事からAIに置き換わるのです。実際にアメリカの大手証券会社では、株式のトレーディング部門にAIを導入したところ、500人のトレーダーが2人になったそうです。

 僕はAIとは、人間が人間らしいことに集中できる仕組みだと思っています。これからは「共感」がみなさんの活動資本となる時代が来るでしょう。AIにできないことを明確にするのは、共感する力です。日本語で言えば「優秀」。優しさに秀でる人に近づけるように、AIは僕たちを導いてくれるんですね。「人間とは何か?」が問われている気がしてなりません。

お金は人を本当に幸せにしているのか?

新井:そもそもお金とは、何でしょうか? お金はみなさんがお金と思うから、お金なのです。昔は金(きん)本位制で金による裏付けがありましたが、今は何の裏付けもありません。みなさんが1万円だと思っているものは、約20円の製造原価で作れる紙幣を1万円のお金だと認識して使っているだけです。

 僕は昨年、株式会社eumo(ユーモ)を立ち上げました。その前は「鎌倉投信」という投信会社を創業し、ファンドマネージャーとして10年間、経営者や起業家を応援してきました。会社というものは、社会のために存在します。しかし、今の世の中ではお金になる行為がビジネスで、お金にならない行為をボランティアという。なぜでしょうか? 本来ならば、社会のためになることがお金になって、社会のためにならないことがお金にならないはずなのに。おかしいですよね。これはお金の定義が悪いのではないか?

 僕は若い頃、お金に苦労しました。母は障害者で、父は僕が小学5年生の時に交通事故にあいました。お金に苦労したから、当初、外資系の金融マンになったんです。お金を手に入れたら幸せになれると本気で思っていました。会社には何千万円も稼ぐ人たちがいて、リーダーたちは何億円という年収を稼いでいました。でも、そこには幸せがなかった。明日クビになるかもしれないと、みんな戦々恐々としていたんです。僕はお金があれば幸せになれると信じていたけど、そうじゃないことに気づきました

 人は幸せになるために生きているのであって、お金のために生きているわけじゃない。でも、人はお金の奴隷になりやすいんですね。いつのまにかお金が幸せにしてくれると思いこんで、お金に縛られた人生を過ごしてしまうんです。それはなぜか?

 一番の問題は、お金が手段ではなく、目的化していることです。貯められるから、お金そのものが目的化してしまう。所有するお金の多寡で価値を判断するから、幸せの本質を見失ったり、格差が生じたりするわけです。ならば、所有という概念をなくし、本当に人が幸せになる手段としてのお金を再定義できないだろうか? と考えました。それが共感コミュニティ通貨『eumo』が生まれたきっかけです。