「腐るお金」「経済メリットゼロ」がもたらすもの
新井:ドイツの作家、ミヒャエル・エンデ氏の『エンデの遺言』という本には、「腐るお金」のことが書かれています。僕はそれを読んで、「腐るお金」のほうが人は幸せになれるんじゃないかと思いました。エンデといえば、時間泥棒をテーマにした作品『モモ』をご存知の方も多いですよね。
eumoは「腐るお金」です。有効期限があるので貯められません。プリペイドカードの1000eumoは1000円相当です。期限は3か月なのでどんどん使ってください。でも、みなさんは貯められないと不安になりますよね?
今年9月からスタートしたeumoの実証実験では、期限が切れたものは共同の財布で管理し、より多く利用した人にお礼として再配分する仕組みです。eumoに共感する人たちのコミュニティで共同の財布をつくり、eumoによる感謝のやりとりをきちんと見える化することで透明性を担保します。使えば使うほどeumoが循環し、幸せな関係性ができれば、貯められない不安を解消できるんじゃないかと、僕たちは考えています。
eumoは経済メリットがゼロです。共感だけでお金は循環するのか? それが僕たちの一番大きなテーマです。
経済メリットを訴求すると、実はいろいろな問題が生じます。例えば国内で一番流通している地域通貨に、飛騨高山(岐阜県)の「さるぼぼコイン」があります。これに1%のポイントをつけたところ、地元の主婦の方々が現金よりも有利なので使い始めました。ところが paypay(ペイペイ)が登場してさらに割引をすると、地域通貨は一気にpaypayに変わるのです。今のスマホアプリ系の決済システムは、お客様から見るとアプリをダウンロードしたらほぼ同じです。結局は一番利便性がよくて、割引率が高いものを選ぶことになる。共感だけでお金が循環する仕組みを開発しない限り、地域通貨は資本の論理で駆逐されてしまいます。どうしたら経済メリット以外の動機で地域に人が来てくれるか? eumoが挑んでいるのは、まさにここです。
お金の切れ目は、ご縁の始まり
新井:「お金の切れ目は縁の切れ目」と言いますが、eumoでは「お金の切れ目は、ご縁の始まり」という関係性をめざします。お金の「決済」機能、つまり、支払うことで関係性が切れてしまう行為ではなく、お金を払うことをきっかけに人生を豊かにする関係性をどうデザインするかに着目しています。eumoは、素敵な活動をする人たちとめぐりあうためのお金です。素晴らしい人との出会いこそが、人間を成長させて人生を豊かにするからです。
これは高橋さんが『食べる通信』でやってきたことと同じなんですね。高橋さんは「食」の世界で生産者と生活者(消費者)を直接つなげようとしています。僕は「お金」の世界でお金のあり方や関係性を変えようとしている。めざしているものは一緒ですよね。
高橋:そうですね。僕は新井さんから「共同の財布」という言葉を聞いて、初めてeumoの仕組みが自分のなかにストンと腹落ちしました。僕らは生まれた時からあまりにも所有することにまみれすぎている。所有という概念を一回消してみなければ、eumoという新しいお金は理解できない。発想の転換が必要ですね。
新井:eumoの加盟店は26か所ありますが、ほとんどが不便な場所にあります。なぜかといえば、不便なところにこそ、大切な価値が残っているからです。少し事例をご紹介しましょう。
北海道に「丸吉日新堂印刷株式会社」という会社があります。バナナの茎を使った紙でザンビアの女性の就労支援をしたり、広島の平和記念公園の古い折り鶴を再活用してエコ名刺を作ったりしている会社です。先日、eumoを使って奈良から北海道まで名刺を作りに行かれたお客様がいます。お客様のコメントには「eumoはそこに行かないと使えない通貨。面倒くさいからこそ、一生のお客様につながるんです」と書かれていました。
わざわざ来てくださるお客様がいるのは、共感があるからです。eumoは経済メリットがないので、安ければ安いほどいいという人ではなく、本当に想いがある人しかこない。加盟店もお客様も幸せになる循環が生まれています。自分たちが提供するサービスに価値を感じる人とつながること。距離を越えてそういう関係性をいかに作るかが大事です。
(イベントレポート②につづく)