労働力不足で、仕事探しを諦めていた高齢者や子育て中の主婦が働き始めたとする。彼らの多くは非正規労働者であって時給は低いだろうから、「労働者平均の賃金」は低下する。労働者全体の所得は増えても、1人当たりの平均は低下するわけだ。

 たとえば我が家の専業主婦がパートで働き始めると、我が家の家計は豊かになるが、「我が家の労働者の1人当たりの所得は統計上、低下してしまう」わけだ。

 新しく働き始める場合のみならず、「従来ならば引退していたはずの定年退職者が、労働力不足のおかげで定年後、再雇用によって働くことになった」という場合も、同様の効果をもたらすだろう。

 その場合には「パートの賃金、正社員の賃金はそれぞれ上がっていたとしても、パートの比率が高まっているので、全体の平均は上がっていない」状態になっているはずである。

 もう1つの可能性としては、「パートの賃金も正社員の賃金も実際には下がっていないのに、統計上は下がっているように見える」ことも考えられる。

 パート社員の中で最も優秀で最も高い時給をもらっている人が、正社員に登用されたとする。誰も所得が減った人はおらず、所得が増えた人が一人いるだけである。

 しかし、非正規労働者の平均賃金の統計を見ると、一番高かった人が抜けているので平均は下がっている。一方で正社員の統計を見ると、新しく正社員に登用された人は正社員の中では所得が低い方であろうから、正社員の平均を押し下げることになる。

 つまり、誰も所得が減っていないのに、この場合は、非正規労働者の平均も正社員の平均も下がっている。

 統計の取り扱いは、難しい。「統計は嘘をつかないが、統計使いは統計を使って嘘をつく」というジョークがあるくらいである。統計使いにだまされないための注意事項は、本稿以外にも数多くある。別の機会に詳述することとしたい。