「情報軽視」が
被害を拡大させる

 では、具体的にどのような「情報軽視」をしていたのか。堀氏の著書『大本営参謀の情報戦記 情報なき国家の悲劇』(文藝春秋)から引用する形でご紹介したい(カッコ内は堀氏の注釈)。

「情報関係のポストに人材を得なかった。このことは、情報に含まれている重大な背後事情を見抜く力の不足となって現われ、情報任務が日本軍では第二次的任務に過ぎない結果となって現れた。(作戦第一、情報軽視)」

 このように正しい情報を得て、バックグラウンドを読み解くことを怠ると、どのような悲劇が待っているのかということは、旧海軍の台湾沖航空戦がわかりやすい。

 実際は、この戦いはボロ負けだった。しかし、情報を軽視していた軍部は「こちらに壊滅的な犠牲者が出ているのだから、米海軍もそれなりにダメージを受けているはずだ」というとんでもない思い違いをして、希望的観測のような「過大戦果」を発表した。そして、この「デマ」を真に受けて甚大な被害を受けたのが陸軍だ。敵の戦力を完全に見誤ったがゆえ、無謀な作戦が立案され、死ななくていい兵士たちが大勢亡くなったのである。

 この情報軽視からの甚大な被害という流れは、今回の「ダイヤモンド・プリンセスの悲劇」も全く同じである。

 汚染された船内で、素人が考えたような雑な感染対策をしていても、二次被害や三次被害が広がっていくだけなのは、岩田氏のような専門家に助言を仰げばすぐにわかる。しかし、情報を軽視していた厚労省は、「船の中に閉じ込めて陸に上げなければ、国内の感染は防げるのだからそれなりに意味があるはずだ」というとんでもない思い違いをして、「船内にとどまらせるのが最善策」だと自己正当化につとめた。そして、このデマを真に受けて、多くの乗客、医療従事者、自衛隊などの支援スタッフがウイルスにさらされたのである。

 厚労省が旧日本軍の組織文化を引きずっているとしたら、今回の「ウイルスとの戦争」の行く末はかなり暗い。国家の体面やエリートの保身のために、「みんなで立ち向かえばきっと勝てる!」みたいな精神論によって、多くの国民が犠牲になるからだ。

「ダイヤモンド・プリンセス号の542人感染者」は、これから始まる大きな悲劇の序章なのかもしれない。