消費者を不安にさせる
安心マーケティングの原理

 明治が本当に消費者の安全に対する関心に向き合う気持ちがあったならば、状況が許す限り、3年を超えて保存試験を続けることもできたのではないか。それを2年で打ち切ったことは、自社にそのつもりはなくても、「安心マーケティングの一種ではないか」と消費者に勘繰られるリスクがあります。

 安心マーケティングとは、消費者の不安につけこんで「うちの商品だけは安心ですよ」と売り込む商法のことです。

 また、世間に批判されるようなことはなかったとしても、そもそも安心マーケティングにつながりかねない商法は、意外に厄介な影響を広げるものです。なぜならそれをやることで、消費者がさらに不安になるからです。

 多くの消費者は、消費期限と賞味期限の違いもよく知りません。でも、「賞味期限が表示されていないアイスは不安だ」という風潮が広がり始めたら、結局、競合メーカーも追随せざるを得なくなるでしょう。現状では、ほとんどのメーカーが「明治に追随する気はない」としていますが、明治の宣伝の仕方次第では、状況が逆の方向に変わっていく可能性はあります。そうなれば、業界自身が自分たちの首を絞めることにもなりかねません。

 私は、明治には報道陣が投げかけた「3年前のアイスには劣化がみられるのか」という質問に答える義務があると思います。また私個人としても、「5年前のアイスは食べても安心なのか」という質問を投げかけておきたいです。

 それがわかるまでに、今から5年の時間を要するとしてもです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)