プライマリー・バランス黒字化目標は、国民を貧困化する政策である――。中野剛志氏はそう主張する。20年以上もデフレで苦しみ続けたうえに、コロナショックに見舞われた日本において、財政健全化を優先することが、なぜ、国民経済に破壊的な影響を及ぼすのか? MMTが明らかにした「事実」をもとに、中野氏に解説してもらった。(構成:ダイヤモンド社 田中泰)

コロナ危機下の「消費税10%」が、国民経済にとってあまりにも「危険」である理由Photo: Adobe Stock

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税金は「財源確保の手段」ではない!?

――前回、2019年10月の消費税増税で、ますます日本のデフレは悪化して、ますます”後進国化”が進むとおっしゃいました。しかも、新型コロナウイルスによる景気の大幅後退も間違いない状況です。その結果、“後進国化”が加速化するとしたら、ゾッとします。

中野剛志(以下、中野) まったくです。そもそも、税の考え方が間違っているんです。これまで、税金は、政府の支出に必要な財源を確保するのに不可欠なものだと考えられてきましたが、MMTによれば、これがそもそもの間違いなんです。

 なぜなら、前に説明したとおり、自国通貨を発行できる政府は、原理的にはいくらでも国債を発行して、財政支出ができるからです。そのような政府が、どうして税金によって財源を確保する必要があるんでしょうか? そんな必要はないんです。

 とはいえ、無税にするとハイパーインフレになってしまう。だから、税というものは、需要を縮小させて、インフレを抑制するために必要だと考えるべきなのです。インフレを抑えたければ、投資や消費にかかる税を重くする。逆に、デフレから脱却したければ、投資減税や消費減税を行う。つまり、税金とは「財源確保の手段」ではなく、「物価調整の手段」なのです。

――税金は「財源確保の手段ではない」とは、これも驚くべき話ですね。

中野 だけど、実際に、予算執行の実務もそうなっているんです。政府が予算執行するとき、政府は、まず政府短期証券を発行して日銀に買わせて、財源を賄っています。そして、徴税は事後的な現象です。実際、確定申告を行うのは会計年度が終わったときですよね? つまり、実務上も、集めた税金を元手に政府が財政支出しているわけではないんです。

 これは、論理的に考えても当たり前のことです。なぜなら、政府が、国民から税を徴収するためには、国民が事前に通貨を保有していなければならないからです。

――あ、そうか。「ない」ものは払えないですもんね。

中野 そうですよね? では、国民は、その通貨をどこから手に入れたのでしょうか?

――通貨を発行する政府からですよね。

中野 そうです。ということは、政府は徴税する前に支出して、国民に通貨を渡していなければならないということになります。国民に通貨を渡す前に、徴税することはできないからです。つまり、税を財源に政府支出をするのではなく、政府支出が先にあって、徴税はその後だということです。これを、MMTは「Spending First」と表現します。「支出が先だ」というわけです。

――なるほど。

中野 そして、政府が民間に通貨を供給する方法は、国債発行によって負債を発生させて、財政支出を行う以外に方法はありません。前に説明したように、信用貨幣論が「貨幣は負債の一種である」と言うとおり、政府が負債を負って、政策目的を達成するために必要な財・サービスを調達することによって、はじめて貨幣が民間に供給されるわけです。

 そして、信用貨幣論では「貨幣は貸出しによって創造され、返済によって消滅する」ことになりますから、徴税によって政府に貨幣が戻ってきたときに、貨幣は消滅します。実際に、徴税された金額と同額の貨幣供給量が減ることになりますよね? つまり、政府が負債を増やすことで貨幣供給量は増えて、政府が徴税することで貨幣供給量が減るわけです。

――そうなりますね。

中野 ここから、さらに驚くべき結論が導き出されます。

――なんでしょうか?