日本企業が「イノベーションのジレンマ」を超えられない理由2020年1月23日に亡くなったクレイトン・クリステンセン教授。『イノベーションのジレンマ』は世界各国の産業界に大きな影響を与えた Photo:John Lamparski/gettyimages

 ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が1月23日、67歳で亡くなった。同教授は1997年に出版された『イノベーションのジレンマ』の著者として、つとに有名だ。謹んでご冥福をお祈り申し上げる。

 出版された時期はインターネットが商用化されたばかりで、シリコンバレーでイノベーション戦略のコンサルティングをしていた私もむさぼるようにこの本を読んだ。「正しい努力を続ける優良企業の事業が、なぜ新興企業にひっくり返されてしまうのか」という疑問に真っ向から答えており、多くの企業に貴重な指針を与えた名著だ。

 イノベーションのジレンマとは、「確固たる地位を築いた企業が顧客のニーズに対応して、より高度な製品・サービスを提供しようとするほど、新興企業に足をすくわれる」ことだ。イノベーションには、従来製品の改良を進める「持続的イノベーション」と、従来製品の価値を超えた新しい価値を提供し、従来製品を破壊してしまう「破壊的イノベーション」がある。既存の企業は持続的イノベーションで自社の事業を成り立たせているため、破壊的イノベーションに気が付かないか、気が付いても目をそらす傾向がある。クリステンセン教授は、既存企業に対してその危険性を訴えた。

 2000年に日本語訳が出版されてからは、日本企業の多くの経営者やマネジャーが読んだはずだ。それなのに、なぜ日本企業の行動はその後も変わらず、「空白の20年」を経てしまったのだろうか。